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環境の学び

シリーズ『地球温暖化(No.4)』

地球温暖化と海面の上昇

 

  環境社会学部教授 鈴木 弘孝
博士(農学)

 2014年10月に国連で承認されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書によると、このまま22世紀もCO2等の温室効果ガスの排出量が増加を続ける最悪のシナリオ(RCP 8.5)では、1986-2005年の平均気温に比較して、今世紀末には最大で4.8℃の気温上昇が予測され、この場合、図1に示すように、温暖化に伴う世界の平均海面水位が、今世紀末には1986-2005年の平均水位と比較して最大で82cm上昇する可能性が指摘されています。

 

図1 温暖化に伴う海水面の上昇予測

海面水位
出所:全国地球温暖化防止活動推進センター
(http://jccca.org/global_warming/knowledge/kno05.html)

 

 温暖化が進むと何故海面の水位が上昇するのでしょうか? 
 それは、海水温度の上昇による膨張とグリーンランドや南極等から氷床が融解することにより、氷が海水へと状態変化し、海水の容積量が増大して、海水位の上昇につながるためと考えられます。
 図3は、IPCCの最悪シナリオ(RCP 8.5)の場合の今世紀末の北極海の2月(冬期)と9月(夏期)の氷床の様子を予測した図です。北極の平均気温は、世界平均気温の約2倍の速さで上昇していることが観測され、北極の海氷面積も減少を続けています。北極海の海氷面積は、9月に最も小さくなり、2月に最も大きくなるという周期を繰り返しています。2012年9月には海氷面積が349万km2 と夏季の最少記録を更新し、1980年代の1/2ほどに縮小しています。温暖化に伴い、冬季の海氷面積についても減少し続けると予測され、一方、9月の海氷はゼロとなっています。これは図3に示す通り、今世紀半ばまでに北極から9月の海氷が消失すると予測されているためです。
 氷が融けて、海氷密度が小さくなると、海氷面からの太陽光線の日射反射率が減少します。この反射率の低下によって氷面での熱の吸収量はさらに増え、一方、海氷面積の縮小に伴い露出した海水面は直接太陽からの放射熱を吸収して、海水温が上昇する結果、融解速度がさらに加速するという悪循環に陥ります。

 

図2 2081~2100の北半球の海氷密度(RCP8.5)

海氷密度

  (出所) IPCC AR5 WG1 Chap.12

 

 海面の水位が上昇するとどのような国土や国民生活にどのような影響が生じるでしょうか? 海水面の水位が現状より1m上昇した場合、日本の国土の自然海岸線の9割が消失すると報告されています。「白砂青松」に代表される日本の風景は大きく変貌を遂げることとなり、自然の海岸や藻場の喪失により、海水の浄化機能を失うとともに、漁場の喪失等により沿岸の漁業にも甚大な影響が及ぶと懸念されます。海水浴やサーフィンなどの市民が海辺で親しんできたレクリエーションの態様も大きく変化することとなるでしょう。
 日本だけでなく、バングラデッシュ等の河口近くの低地に位置する国々やモルディブ等の島嶼国は、国土の相当部分を喪失してしまう可能性があります。図1より温暖化を2℃未満に抑制できたとしても、海水面の上昇を現状のまま維持することは極めて困難であることが予測されています。そして、温暖化による海水温度の上昇等により暴風雨を伴う大型の台風やサイクロン等の発生頻度が高まる可能性が上記の報告書では指摘されています。
 海水面の水位の上昇に、大型の台風等の発生が重なると、高潮や河川の氾濫による洪水被害の拡大する可能性と危険性が高まることとなります。ストップ温暖化のための科学的知見の集積、国際的な連携と対策の強化、行政と企業、市民、NPO等の各主体の取れ組みの必要性等の具体のアクションは待ったなしの状況にあると言えます。

※ 環境省地球温暖化問題検討委員会 温暖化影響評価ワーキングループ「地球温暖化の日本への影響2001」(2001年)

 

図3 21世紀にわたる北半球の9月の海氷面積

海氷面積
(出所) IPCC AR5 WG1 政策決定者向け要約
RCP8.5シナリオでは今世紀半ばまでに9月の北極海で、海氷がほとんどなくなる。