News


環境の学び

シリーズ『地球温暖化(No.5)』

地球温暖化と異常気象

 

  環境社会学部教授 鈴木 弘孝
博士(農学)

 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書によると、熱波、干ばつ、洪水、低気圧、火災などの気候に関連した極端現象の影響は、生態系や人間活動に非常に深刻な脆弱性を与えるとしています。具体的には生態系への変化、食料生産や水供給の断絶、インフラや住居の損害、罹患率や死亡などです。これらの影響は、アフリカ、オーストラリア、ヨーロッパ、北アメリカ、北極域とすべての地域に現れてきていますが、特に開発途上国では、強制移転などのリスクも高まるとしています。

 地球の温暖化により、大気だけでなく海洋も温暖化が進んでいます。図1は第5次評価報告書の第一作業部会の報告書より、1971年を基準にした貯熱量の変化とその内訳を示したものです。この図から1971~2010年の40年間に蓄積された熱エネルギーの90%以上を海洋が吸収していることがわかります。このうち青色の海洋表層(0~700m)で60%、紺色の700m以深で残る約30%が蓄積されたとしています。そしてこの蓄積によって海水温の上昇が起こっていると考えられています。

 海洋には図2の橙色で示される暖かい表層循環と、青色で示される深さ数千mの深海を循環する深層循環の2つの大きな流れがあります。第5次評価報告書では、②→③→⑦→①の海流循環が21世紀を通じて弱まる可能性が非常に高いと予測しています。グリーンランド周辺で冷やされた海水が深層循環によって、温かく軽くなった海水になって戻り、その海水が熱を大気に放出することで地上気温を上昇させ、それによって冷やされた海水は再び深層に沈み込むという循環を繰り返しています。
 しかしグリーンランド周辺の気温が高くなると、温かい海水温との温度差が小さくなり、①での大気への熱放出が減り、海洋の冷却も小さくなって沈み込みも弱まってしまいます。この結果ヨーロッパの広い範囲で気候が寒冷化するだけでなく、地球の南北方向の気候や海流の流れにも影響を及ぼし、地球全体の気候変動にも影響が及ぶと考えられています。

 

図 気候システムの貯熱量変化(1971年との差)

(出所) IPCC AR5 WG1 Chap3 日本海洋学会教育問題研究会「海の教室」

 

 地球温暖化が進むと大気への蒸散活動が活発になり、全体としては降水量が増加すると予測されています。第5次評価報告書では、高緯度と太平洋赤道域、中緯度湿潤地域といった降水が多い地域ではさらに降水量が増え、降り方についてもより強く、より頻繁になる可能性が高いと予測されています。
 海水面の温度が上昇することにより、海面からの蒸発量が増大します。一方、温暖化により大気の温度(気温)が上昇することにより、大気中の単位体積当たりの水蒸気の飽和量、いわゆる「飽和水蒸気量」も増大します。この水蒸気(気体)が水(液体)になる際に放出される熱エネルギーによって熱帯低気圧は発達します。つまり、温暖化が進めば、暖かい海水(26℃以上)がエネルギー源となって、海洋からの蒸発が盛んになり、大量の水蒸気が大気中に蓄えられるため、より強い熱帯低気圧に発達しやすくなります。2013年11月にフィリピンで甚大な被害をもたらした台風30号(ハイエン)のようなスーパー台風(最大風速67m/sを超える台風)の発生数が、近年増加傾向にあると指摘されています。
 バングラデシュのように、河口付近の海抜の低い地帯に人口が密集し、経済的に洪水対策ができないところではさらに被害が拡大します。またこの状況に温暖化による海面水位上昇が加わると、沿岸域における洪水被害は一層拡大するものと予測されます。

 スーパー台風等の強い熱帯低気圧による洪水や高潮等の被害を防止するための地盤や堤防かさ上げ等に要する対策や、ひとたび災害が起こった場合の災害復旧には、膨大の予算と労力、時間を費やすこととなります。人命や財産の保護、自然の保全等、これらの極端な異常気象による災害から守り、被害を最小化するためには、温室効果ガスの排出量を大幅に削減し、温暖化による気温上昇を2℃以内に収束させていくという「パリ協定」の合意を、国際社会が相互の協調と連帯により、着実に行動に移さなければならないことはもはや自明の理と言えるでしょう。

 

図2 全球の海洋循環

  (出所) 気象庁「異常気象レポート2005」(2005)

 


勢力がピークを迎えたハイエンの赤外強調画像(2013年11月9日)
    (出所) デジタル台風 台風画像と台風情報 国立情報学研究所

 


洪水に襲われたバングラデシュの首都ダッカ
       (出所) シャプラニール=市民による海外協力の会