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園芸・健康コア

シリーズ 『アロマと環境(No.7)』
森を守れ

 

環境社会学部教授 川口 健夫
(薬学博士)

 松の巨木が立ち枯れている光景が見られますが、その主な原因は、体長数ミリメートルのキクイムシとそれらが媒介する病原菌です。キクイムシには多くの種類があり、それぞれ好みの植物種、浸入・定着する植物の部位(例えば、巨木の上部か中間部かなど)、植物の状態などが異なります。枯れかけた樹木が発生するエタノールなどを目標に飛来するキクイムシもありますが、通常は偶然に停まった木を少々齧ってみて「美味しい」と感じれば、食べ進みますが、木が元気な場合には、樹液や樹脂の分泌に会って追い出されてしまうこともあります。喰い付いた木の味が良く、抵抗力も弱いと判断すると、キクイムシは仲間を呼び集めますが、その際に用いられるのが集合フェロモンです。
 北米大陸西部原産のポンデローサ松(Pinus ponderosa)を食害することで知られるキクイムシの一種Ips paraconfususは、雄が樹皮下の木部を食べ進みながら、後方に集合フェロモンを含む糞(フラス)を押し出します。このフラスが発する化学情報を感知した雌が集合し(一夫多妻)交尾して産卵します。生まれた幼虫も同じ木を食べて成長し、木部に自ら開けた穴(回廊)の先端で蛹を経て成虫になり、羽化後は新たな宿主(=木)を求めて飛び立ちます。この生態サイクルを制御している集合フェロモンは、ポンデローサ松の産するアロマ成分を原料にして、Ips paraconfusus自身およびその腸内細菌Bacillus cereusが合成していますが、その原料とは、エッセンシャルオイル(精油)の成分として一般的なミルセンとα-ピネンです。これまでに確認されているIps paraconfususの集合フェロモンは、イプセノール、イプスジエノール、cis-ベルベノールの3種で、前2種がミルセンを、後者はα-ピネンを原料に合成されています。
 森を守るためには、害虫(Ips paraconfusus)の数を減らすことが必要です。被害を受けている木を1本ずつ駆除したり、保護する木を1本ずつ防護資材などで処理する方法もありますが、実施可能な場所は公園など、小規模な地域に限定されます。そこで広域の一般山林で実施できる新たな防除方法として、Ips paraconfususの集合フェロモンを利用して、この虫を大量に誘引駆除して被害を抑制することが行われています。
 一方、一本の木に十分な数の仲間が集まり、それ以上に「集合フェロモン」が作用すると個体数が過剰になるような場合には「集合抑制フェロモン」を産生して、「集合フェロモン」の作用を打ち消すことも行われます。そこで、広範囲に「集合抑制フェロモン」を散布し、特定箇所に「集合フェロモン」を提示して、害虫を一網打尽にすることも考えられています。

 
ポンデローザ松(Pinus ponderosa):
北アメリカ西部に分布。アメリカ・モンタナ州の州木。
Ips paraconfusus