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環境の学び

シリーズ『環境とビジネス(No.1)』

注目を集めるCSR

 

環境社会学部客員教授 福田順子 

 環境とビジネスとは対立する概念だと思っている人は多いようです。半世紀以上前の公害問題は企業が原因であったことは確かです。その反省も踏まえて現在、産業や企業は、環境負荷を減らし、社会にプラスになることに本気で取組んでいます。

 学部の学びでも、社会・生活・経済と環境との関係を新しい視点でとらえ、将来の就職や仕事に役立つよう、産業・企業と環境の関係を勉強します。環境を重視した経営の時代になりましたので、環境とビジネスとの関係を学ぶことで、プラスαのビジネスセンスが身につき、事業展開において実践力につながるという強みを発揮できます。卒業生は、コンビニエンスストア、運輸、外食・中食、エネルギー関係、環境保全等、環境を重視した経営や環境を守る事業を展開している企業で活躍しています。

 本シリーズでは、環境を生かした経営や社会貢献の実態を紹介し、未来社会を考えるヒントを提供します。

◆ CSRの登場
 最近、CSRという文字を新聞等でよく見かけます。
 CSRは、Corporate Social Responsibilityの頭文字で、「企業の社会的責任」と訳されています。明確な定義はありませんが、経済産業省では、「法令遵守、消費者保護、環境保護、労働、人権尊重、地域貢献など、純粋に財務的な活動以外の分野において、企業が持続的な発展を目的として行う自主的取組み」と説明しています。
 企業は、営利の追求や株主保護を目的とするのではなく、社会の一員として、その役割や責任を果たさなければならない、という考え方や指針を示したものです。CSRを実践することが企業の存立基盤となってきたのです。

◆ 欧米のCSR
 CSRの発祥は欧米ですが、21世紀の初めころに登場しました。背景には、EU統合、企業の不祥事の発生、環境破壊の深刻化、グローバリゼーションの進展などがあります。
 EU(欧州連合)では、欧州委員会(EC)が、2002年にCSRマルチステークホルダー・フォーラム(※1)を設置し、2002年には、「責任ある行動が持続可能なビジネスの成功につながるという認識を企業が持ち、社会や環境に関する問題意識を、事業活動やステークホルダー(※2)との関係の中に自主的に取り入れていくための概念」という定義づけをしました。2004年にその報告書を公表、2006年にはCSR に関するコミュニケーション(政策方針)発表しました。

※1:共通の目標のために、多様な(マルチ)主体(ステークホルダー)が参画して、対話と協働を進める評議会

※2:消費者・株主・取引先・従業員・NPO・行政・地域などの利害関係者

 

 イギリスは、2000年、CSRの考慮と議決権行使の基本方針の公開を企業に義務づけ、2001年にCSR担当大臣(貿易産業省閣外大臣)を設置しました。フランスでは、2001年に「新経済規制法」を制定し、上場企業に対して企業活動の社会的・環境的影響に関する年次報告の作成と公開を義務づけ、その年にCSR担当大臣を任命しました。
 アメリカでは1990年代後半から、企業は利益を追求するだけでなく、法律遵守、環境への配慮、コミュニティへの貢献などが求められるようになり、2000年以降はCSRを法律で定めたり、規制するようになりました。

◆ 日本のCSRは江戸時代から
 日本では、CSRの原点は実は江戸時代にさかのぼります。
 商家の家訓や家憲の中に、CSRの考え方を示すものが見られます。背景にあるのは、元禄バブルといわれた繁栄が崩壊したことで、多くの商家が事業者本位の商業活動を反省し,顧客や事業関係者の満足を得る商業活動こそが,商業活動本来のあり方であることに目覚めたのです。そうした考え方を「家訓」として定め,社会で生きていくための商業哲学を示したのです。
 江戸の商人の家訓として知られているのは近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よしの考え方です。近江商人は滋賀県の商人のことで、いろいろな家訓がありますが、「三方よし」は全体の心意気を示すものです。その原点は、中村治兵衛(法名:宗岸)が宝暦四年(1754)70歳の時に書き記した『家訓』にあるといわれています。売り手と買い手が利益を得るだけでなく、取引自体が社会(世間)にも利益となる、という社会性を大切に考えた商売の基本を教えています。
 江戸中期の心学者・石田梅岩の「まことの商人は先(取引先)も立ち、我も立つことを思うなり」や、茂木家(キッコーマン、創業者は茂木七郎右衛門)の家憲「徳義は本なり,財は末なり,本末を忘るる勿かれ」(本は根本、末は枝葉、取り違えてはいけないという意味) などは、江戸時代の商人のCSR精神といえましょう。

◆ 本格的なCSR
 しかし、Corporate(企業)という概念は近代のものですから、2003年に社団法人経済同友会がまとめた企業白書『「市場の進化」と社会的責任』が、現代のCSRの出発でしょう。この年をCSR元年としています。20世紀が生産者優位の社会であったのに対して、21世紀は、省資源、自然エネルギー、CO2削減、循環型社会など消費者優位、しかも環境保全の考え方に転換したことが背景にあります。企業は、社会的な存在として社会的責任を果たすことは当然なのですが、コストが増えて経営を圧迫するのではCSRは浸透しなかったでしょう。
 実は、CSRを実践することによって、環境を守ると同時に、利益を生むことがわかってきたのです。CSRに積極的に取組むことで、事業の効率化、コスト削減、エネルギーの無駄の削減など、企業の競争力を強くする成果を生むことがわかってきたのです。それは投資家や消費者、地域社会から評価を得ることにもつながります。三方よしの現代版です。
 今や、多くの企業が「CSRレポート」「環境報告書」「持続可能性報告書」などをまとめて、自社のCSRの取組みを公開しています。その中心は「環境」です。環境負荷を減らし、再生エネルギーを推進し、自然と共生し、植林し、サステナビリティを実践する、これらの活動が企業を元気にし、地域を活性化し、社会貢献につながるとして評価を得る結果となっています。
 企業のCSR活動は、第三者が評価することでより一層、企業の取組が活発化します。最近は、「CSR企業総覧2016」(東洋経済新報社)、「第20回環境経営度調査2017」(日経リサーチ)「世界で最も持続可能な100社」(コーポレートナイツ社・カナダ)、「CSR総合ランキング2016」(エコホットライン)、「本業での社会貢献を実感できる企業ランキング」(エン・ジャパン)、「CSRレポートランキング2016」(CSRジャパン)、などの書籍やネットで、一覧として紹介したり、独自にランキングをつけて誰もが見ることができるようになっています。

 次回は、ランキングや企業の事例も含めて、内容を少し詳しく紹介します。

CSR企業総覧
東洋経済新報社
 CSR Report2016
CSRジャパン ホームページより 

 

CSRランキング2016
エコホットライン ホームページより