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環境の学び

シリーズ『環境とビジネス(No.3)』

環境経営に取組むと企業価値は上がる

 

環境社会学部客員教授 福田順子 

 環境とビジネスとは対立する概念だと思っている人は多いようです。半世紀以上前の公害問題は企業が原因であったことは確かです。その反省も踏まえて現在、産業や企業は、環境負荷を減らし、社会にプラスになることに本気で取組んでいます。
 学部の学びでも、社会・生活・経済と環境との関係を新しい視点でとらえ、将来の就職や仕事に役立つよう、産業・企業と環境の関係を勉強します。環境を重視した経営の時代になりましたので、環境とビジネスとの関係を学ぶことで、プラスαのビジネスセンスが身につき、事業展開において実践力につながるという強みを発揮できます。卒業生は、コンビニエンスストア、運輸、外食・中食、エネルギー関係、環境保全等、環境を重視した経営や環境を守る事業を展開している企業で活躍しています。
 本シリーズでは、環境を生かした経営や社会貢献の実態を紹介し、未来社会を考えるヒントを提供します。

 

◆ 「環境経営度調査」でわかる環境経営
 日本経済新聞社が、1997年から年1回実施してきたのが「環境経営度調査」です。今回で20回目を迎えました。

 「環境経営度調査」の調査目的は、企業が、「環境対策」「経営効率の向上」の両立にどのくらい取組んでいるかを調べることにあります。環境対策を実施し、かつ、経営的に安定もしくは成長している、これら二つの条件を満たしていなければなりません。対策には熱心でも、経営が立ち行かないようでは評価が下がってしまいます。

 第20回の調査は、2016年8月から11月にかけて、上場・非上場の有力企業(製造業1733社、非製造業1429社)を対象にアンケート調査を実施し、657社(製造業396社、非製造業261社)から回答がありました。回答結果を次の指標で評価します。
 「製造業部門」は、①環境経営推進体制、②温暖化対策、③製品対策、④汚染対策・生物多様性対応、⑤資源循環、の5点、「非製造業(サービス業)部門」では、①環境経営推進体制、②温暖化対策、③汚染対策・生物多様性対応、④資源循環、の4点が指標です。非製造業は、サービスを提供しますので製品対策についての質問はありませんが、建設業は非製造業でも資材を使いますので、「製品対策」も含めて500点満点での評価となります。

 経営効率を計る指標としては、上記の指標以外に過去3年間の「売上高」と「営業利益」を答えてもらう設問があります。これら二つの結果が低い場合には評価が下がります。
 質問数は多く、A4版用紙で25, 6ページ、約100問に対して回答しなければなりません。選択式の設問もあれば、実際の数値で回答する場合もあります。
 点数は、各指標とも最高点が100、最低点が10とされており、製造業と建設業は最高スコアが500、非製造業は400で算出されます。この指標をもとに、企業の環境経営“度”(ランキング)が決まります。製造業については総合ランキング、非製造業は業種が多様ですので業種別のランキングが出されます。

 前回のCSRランキングと今回の環境経営度ランキングとを比較していただくと違いがわかるでしょう。環境経営度に的を絞ると、多様な環境対策があることがわかります。

 

◆ 製造業ではキャノンがトップ
 今回の調査で、製造業部門で1位になったのはキヤノン株式会社でした。オフィス向け複合機やプリンターのカーボン・オフセットサービス*1の提供、トナー・インクカートリッジの自動リサイクルシステムの確立などが評価され、①環境経営推進体制、②温暖化対策、⑤資源循環の3項目で最高点を獲得し、500点満点に対して496点を獲得しました。

 キヤノンは、2008年に策定した環境ビジョン「Action for Green」に基づいて、製品1台当たりのライフサイクルCO2*2を年率3%削減することを目標に、生産拠点での省エネルギー活動、物流ではモーダルシフト*3、製品使用時の消費電力の削減、製品のリマニュファクチャリング*4、部品のリユース、消耗品のリサイクルなどに積極的に取り組みました。その結果、2015年実績で、製品1台当りのライフサイクルCO2を2008年比で約30%(年平均、約5%)も削減させたことが評価されました。

 

表1 製造業トップ10(最高点500)製造業TOP10表

出所:日本経済新聞1月23日朝刊

*1:経済活動や生活などによって排出された二酸化炭素などの温室効果ガスを、クリーンエネルギー事業(排出権購入)などによる排出削減や吸収量等の削減活動によって、他の場所で排出量の全部又は一部を吸収しようとする考え方・活動

*2:製品の製造・輸送・販売・使用・廃棄・再利用までの全ての段階で発生する二酸化炭素排出量を削減するために、製品寿命1年あたりのCO2排出量を算出して評価する手法のこと

*3:輸送手段の転換のことで、具体的には、トラックによる幹線貨物輸送を、「地球に優しく、大量輸送が可能な海運や鉄道に転換」すること

*4:回収した部品で、新品と同等の品質によみがえらせること

 

図1 カーボンオフセットの考え方
カーボンオフセット図

出所:カーボンオフセット・フォーラム ホームページ

 

 今回のランキングでは、6位の富士フィルムホールディングスと7位の富士通、9位の大日本印刷が昨年調査に比べて躍進しました。
 富士通は情報技術で業務効率化を支援し、取引先のCO2排出量を2015年度までの3年間で約4000万トン削減し情報の蔵独活管理で顧客企業のサーバーを廃止して消費電力の削減につなげる、といった努力が評価されました。

 今回、トップ10のうち5社が電気機器メーカーであることが特徴的です。この分野は、再生エネルギー設備を国内外で増やす計画など、環境対策によって経営力を強化できるという強みを持っています。

 

◆非製造業 ~ 業種別トップ3(最高点400)
 非製造業(サービス業)については、事業内容が多様であるので、業界別に上位3社を見てみましょう。
 業界は、「小売・外食」「金融」「運輸」「通信・サービス」「倉庫・不動産・その他」「商社」「電力・ガス」「建設業」の8業界に分かれています(電力・ガスと建設業に関しては、400点満点ではありません。)。

 非製造業の評価では、建設業や電力・ガスを除いて、全体的にスコアが低いのが特徴です。製造業に比べて人力に頼る業界ですので、直接的な環境対策がみえにくいことにも原因があるかもしれません。

表2  非製造業上位3社(最高点400)
非製造業1~4
非製造業4~6
非製造業8

 まず運輸業では、佐川急便が天然ガストラックの導入や電車を利用した輸送を増やしてCO2削減に取組んだことが評価につながりました。2016年には地下鉄で商品を運ぶ実験も行ないました。CO2の削減と一言でいうのでなく、小さな努力や対策の重要性を教えてくれました。

図2 ゼロ・エネルギーハウスのイメージ
ゼロエネルギーハウス
出所:資源エネルギー庁

 また建設業では、自給自足のエネルギー対策を実現し、電気代・温暖化ガス排出量ゼロの「ゼロ・エネルギーハウス(ZEH)」販売などで500点満点をとった積水ハウスの対策は、業界としての特色を生かした環境対策といえましょう。

 小売・外食業界では、生産から販売までに関わりますので、自分の会社だけではなく取引先との関係も考えなければなりません。そのためスコアの計算ガ難しくなったのも事実です。外食企業は第3位までにランクされませ  でしたが、業界の特徴として、安全対策も重視しなければなりません。安全対策と環境対策の両立という難しい課題に挑戦しなければならない事業分野です。この点については、“HACCP”や“トレーサビリティ“といった考え方がありますので、この後の回で紹介することにします。

 非製造業の場合は、企業にとっての重要な資源は人間ですので、環境対策の効果が計りにくいこともあり、高得点にはなかなか結びつきません。しかしオフィス環境に配慮したり(オフィスのエネルギー消費量を減らす空調システムの導入など)、汚染対策や生物多様性に対する配慮・対策は、非製造業でできる環境対策として工夫が必要です。

 

◆ 環境対策と企業価値
 企業が環境対策に熱心に取組むのは、一つには、時代的に、営利企業であっても環境問題に無関心ではいられなくなってきたことがあります。環境を汚染しないという消極的な姿勢ではなく、率先して環境保護や保全にかかわるといった積極的な姿勢が求められています。
 二つ目は、環境対策に熱心な企業、すなわち、環境経営に積極的に取り組む企業は、競争力を強くし、将来的には企業価値の向上につながるという理由で投資家が投資に熱心になり、株価も上がるという経済的な側面もあります。
 環境対策は、コストではなくプロフィット(利益)につながっているのです。

 環境経営と企業価値との関係については、WBCSD(World Business Council for Sustainable Development=持続可能な発展のための世界経済人会議)が1997年に発表した報告書があります。詳細は別の機会に紹介しますが、簡単にいえば、環境経営が投資の材料に使われているという結論を導き出しています。今から20年前にすでに、環境経営の重要性を示唆した報告書が出されていたわけです。今後、ますます、環境経営は、環境対策だけでなく経済的価値・企業価値を生み出していくことになるのです。

 環境を幅広く学ぶ皆さんにとって、就職先を選択する際に、環境経営は重要な指標になります。あるいは、就職した企業が新たな環境経営に取り組み始めるかもしれません。いずれにしても、「環境経営」について知っておくと実社会でプラスになることは間違いありません。