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環境の学び

シリーズ環境経済を学ぶ(No.4)

『自動車産業の挑戦』―逆工場でリサイクル―

 

環境社会学部教授 福田 順子

 自動車産業と聞くと、CO2を排出して大気汚染の元凶、交通混雑や騒音などで、環境にとってマイナスの影響を与える代表的な産業だと考える人は多いでしょう。しかし、その自動車産業が、今やリサイクルシステムにおいては先進的な取り組みを実践していることはあまり知られていません。
 今回は、自動車産業のリサイクルシステム「逆工場」「逆生産」(インバース・マニュファクチャリング)について紹介します。

 

◆使用済み自動車の行方
 瀬戸内海の小さな島「豊島」が、自動車のシュレッダーダスト(金属以外の破砕屑)の不法投棄の島として知られ、1975年から20年近く不法投棄は続き、社会問題となりました。豊島に廃棄されたシュレッダーダストはすべてが自動車というわけではありませんが、破砕企業が廃棄する廃棄自動車のシュレッダーダストは、車の重量の20%。使用済み自動車は年間600万台といわれていますから、シュレッダーダストは毎年120万トンになる計算になります。豊島事件を契機に、「廃棄物としての自動車」が社会に認識されるようになりました。

 

 豊島に不法投棄された産業廃棄物の山
 
 出所:香川県豊島問題ホームページより  

 

 こうした背景の中で、1997年には「使用済み自動車リサイクルイニシアティブ」を通産省(現・経済産業省)が示し、2000年には「循環型社会形成推進基本法」が、2002年には「自動車リサイクル法」が制定されました。環境に対する関心の高まりによって、使用済み自動車のリサイクル率の向上と、環境汚染の防止、騒音、振動、粉砕、フロン対策等、環境を守るための対応が求められるようになりました。

 

◆逆工場の考え方
 自動車産業界は、1990年代半ばには新しい取組みを始めました。新車の設計段階から、リサイクルできる、もしくはしやすい素材を使い、シュレッダーダストとなる材料をリサイクルしやすくするシステムの構築です。これを「逆工場(インバース・マニュファクチャリング))といい、東京大学元総長の吉川弘之氏が1990年代半ばに提唱した考え方です。「持続可能な製造業」のあり方を示す考え方と言えましょう。資源を使って製品を作り、廃棄には関わらないというのでは循環型生産システムとはいえません。循環型の製品のライフサイクルを考える産業に転換しなければならないという発想から生まれました。

 

逆工場の概念図

出所:一般財団法人 製造科学技術センター

 

 逆工場は、単に使用した資源のリサイクルということではありません。最初の生産段階からリサイクル可能な原材料を使用し、製品の長寿命化を図り、そのためにメンテナンス技術を向上させ、使用者のニーズや家族構成の変化に応じて機能を転換する、といった、長寿型・循環型生産を意味します。資源・エネルギーの使用量、廃棄物、環境負荷を最少化する循環型製品ライフサイクル・システムを実現することが目的です。
 これまでの製品ライフサイクル(製品が登場(誕生)してから市場から消える(死亡)まで)では、「設計→生産→使用→廃棄」といった順工程が中心でしたが、逆工場では、それに続く「回収→分解→再利用」という逆行程も視野にいれてシステムを構築しています。
 今では、自動車のリサイクル率は90~99%になっています。

 

出所:公益財団法人 自動車リサイクル促進センター

 

◆リサイクルもエネルギー消費を必要とする
 循環型社会の形成に向けては、3R(リデュース、リユース、リサイクル)が大切であることは誰もが知っています。最近では、これにもう1つの“R”(リフューズ=断る、使用しない)を加えて“4R”という言い方もあります。
 この中で、リサイクルに関しては、それに必要なエネルギー消費やコストの問題もあって、必ずしも循環型社会に有効とは言えない場合もあります。
 リサイクルの効率を高めて、リサイクルによる環境インパクト(環境への影響)を少なくする技術が必要ですが、金属やプラスチックなどをリサイクルして再生する技術は難しく、日本では原料にして再利用する方法はほとんど行なわれていません。
 そうした問題を解決するのが「逆工場」なのです。すでに平成11(1999)年版の『環境白書』(テーマは、「21世紀の持続的発展に向けた環境メッセージ」)で、逆工場の萌芽を紹介しています。その例は、「アマゾンの畑で採れる自動車」です。ドイツの自動車メーカーが、構造体の鉄鋼を除いた内装材の9割を再生可能な天然素材を使って生産し、タイヤは天然ゴム、ヘッドレストにはココナッツ繊維、トラックの天井の内貼りはジュート等を使い、軽くて丈夫、かつリサイクル可能な低負荷型の自動車を生産している例です。燃料も、サトウキビからできたエタノールが用いられています。
このような取組みの背景として、再生可能な資源の活用によって自動車産業の持続可能性を向上させるという企業の考え方がありますが、結果として、天然素材を生産する農民の経済力を高めることにもつながっています。

 逆工場は21世紀型の、「環境に優しいモノづくり」の基本となる発想(ビジネスモデル)と言えましょう。