授業紹介(No.14)環境経済を学ぶ『グリーン・エコノミーについて』

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環境経済を学ぶ『グリーン・エコノミーについて』

環境社会学部教授 福田 順子

本学部の講義「環境経済」では、経済や企業と環境がどのように関わっているのか、また、環境にとって経済が、経済にとって環境がどのように貢献しているのか、について学びます。簡単にいえば、経済はお金を扱い、環境は自然を扱うので、対立する概念だと考える人は多いですが、両者は融合できますし、統合することで新しい価値が生まれるのです。

ecology(生態学・環境)とeconomy(経済)の共通点は、“eco”という接頭語です。eco の語源は、ギリシャ語の「家」を意味する oikos(オイコス)にあるといわれています。そのeco に、「規則や規範」を意味するnomos(ノモス)がついて economy になり、「理性や言語」を意味する logos(ロゴス)が付いて ecology となり、結果は違ったものになりました。語源を同じくする二つの言葉を統合することで、豊かなオイコスが実現するというのが環境経済が前提としていることです。(環境経済は最近はグリーン・エコノミーという言葉を使っています。まだスタートラインに立ったばかりで具体的な成果はこれからですので、考え方を紹介することにします。)

1.グリーン・エコノミーとは

 

グリーン・エコノミーとは、持続可能な発展を実現するために必要な、環境に優しい経済のことを意味しています。「持続可能」「環境に優しい」という言葉がポイントになります。持続可能な社会を実現するには経済の力が必要になりますが、そのために環境を犠牲にすることはグリーン・エコノミーの趣旨に合いません。環境と経済の両立が重要です。

グリーン・エコノミーが注目されるようになった背景には、20世紀型経済の負の遺産があります。先進国(経済危機)・新興国(資源不足と環境汚染)・途上国(貧困と自然破壊)それぞれが問題を抱えており、それに追い討ちをかけるように21世紀になると、気候変動、地球温暖化、エネルギー危機などの地球規模の危険が迫ってきました。世界は、資源の消費を減らし、再生可能エネルギーに切り替え、自然との共生を目指そうとする新しい考え方、即ち、グリーン・エコノミーについて考え始めました。

2008年12月11日には国連事務総長が「緑の成長が数百万の雇用を創出する」と表明していますので、環境が経済にプラスになる(貢献する)という考え方は、21世紀になって世界的な傾向となったのです。

2.グリーン・ニューディール

グリーン・エコノミーを有名にしたのはアメリカのオバマ大統領でした。2009年2月17日、オバマ大統領は、総額7,870億ドルの景気対策法案に署名し、同法案は成立しました。それは「グリーン・ニューディール」といわれる政策でした。その中では環境・エネルギー対策が柱で、(1)住宅の省エネ対策、(2)環境配慮型の自動車、(3)再生可能エネルギーと送電網の更新、(4)政府の施設や活動における省エネへの財政支出(634億ドル)、それらに加えて、(5)再生可能エネルギー関連の税金控除、(6)クリーン・エネルギー債権、などの誘導措置が追 加されました。

ニューディールという言葉は、1930年代の大恐慌の時代、大統領に当選したフランクリン・ルーズベルトが就任後、大胆な金融緩和や「グラス・スティーガル法」を制定して景気を回復させ、失業も減らしたことに由来しています。ルーズベルト大統領が公共投資によるニューディール政策で大恐慌を乗り切ったように、オバマ大統領は環境への投資でアメリカ経済の危機を打開したいという思いを込めたのです。

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オバマ大統領は道路やダムなどの建設という従来型の公共事業ではなく、脱温暖化ビジネスに力を入れて環境と経済の両方の危機を同時に克服するという考え方に立ちました。太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの拡大、植物によるバイオ燃料の開発、プラグイン・ハイブリッド車の普及などがその内容で、エネルギー分野だけで10年間に1500億ドル(約15兆円)の予算を投入してグリーン関係の事業を拡大し500万人の雇用を生み出すというものでした。

しかしグリーン・ニューディール政策は、雇用も2万人程度しか増やせませんでしたし、太陽光発電は安価な中国製に負け、太陽電池メーカーのソリンドラ社の経営破綻など、成果は出せませんでした。シェールガスの増産も、自然エネルギー関係の意欲を減退させました。発想は間違っていなかったのですが、戦略で失敗したといわれています。オバマ大統領はその反省を踏まえて、2期目は気候変動に舵を切り替えました。

3.UNEPとOECDのグリーン・エコノミー報告

アメリカ以外ではどうでしょう。国際的な2つの機関が発表した報告書を簡単に紹介しましょう。

国連環境計画(UNEP)が2011年11月に公表したのは「グリーン経済(Green Economy)」、経済協力開発機構 (OECD)が2011年5月に公表したのは「グリーン成長に向けて(Towards Green Growth)」という報告書です。どちらも、環境・経済・社会がバランスよく持続可能性を追求することを主張しています。

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UNEPの報告書では、「グリーン経済」を、「環境問題で生じるリスクと生態系の損失を減らしながら、人間の生活の質を改善して社会の不平等を解消するための経済のあり方」と定義しています。

つまり、環境の質を向上させ人々が健康で文化的な生活を送ることができるようにするとともに、経済成長を達成して環境や社会問題の解決のための投資を促進することを目的としています。また、気候変動、エネルギーの安定確保、生態系の損失の問題に直面している現在の世界情勢の中で、国家間・世代間での貧富の格差を是正することに焦点が当てられています。

社会的リスクを減らすために経済を機能させて、生態系の保持も含めて人間の豊かな社会(オイコス)を実現することを目指しているのです。

OECDの報告書では、グリーン成長(Green Growth)について「経済的な成長を実現しながら私たちの暮らしを支えている自然資源と自然環境の恵みを受け続けることである」と書かれています。

そのためには、生産性の向上、環境問題に対処するための投資の促進や技術の革新、新しい市場の創造、投資家の信頼、マクロ経済条件の安定等が必要であることを指摘しています。つまり、環境を守り育てるためには、経済的な保障が必要であるという考え方です。グリーン成長は、資源の制約によって投資が無駄になったり、生物多様性の損失などの自然界の不均衡を及ぼすようなリスクを減らさなければならないということです。

  1. UNEPの「グリーン経済」
  2. グリーン成長の考え方
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4.日本のグリーン・エコノミー

現在、世界各国で、環境・経済・社会の中長期的な姿と達成すべき目標について国の戦略として定めています。同時に、目標達成に向けたグリーン・イノベーション(社会の持続的な発展のために科学技術や社会的変革を基に展開する取組み)の推進を進めています。

日本でも、新成長戦略(2010年6月)において、グリーン・イノベーションの促進や総合的な政策によって、2020年までに「50兆円超の環境関連の新規市場」、「140 万人の環境分野の新規雇用」、「日本の民間ベースの技術を活かし世界の温室効果ガス削減量を13 億トン以上とすること(日本全体の総排出量に相当)」を実現することを明記しました。具体策として、(1)固定価格買取制度の導入等による再生可能エネルギーの拡大、 (2)環境未来都市構想、(3)森林・林業再生プラン、の3つが、国家戦略プロジェクトに指定されています。

それを受けて環境省が2012年1月に発表した報告書『市場の更なるグリーン化に向けて』では、市場のグリーン化(環境配慮・環境創造)について3つの視点をあげています。(1)環境保全の視点を社会・経済活動に織り込む、(2)環境配慮型の製品・サービスを開発・提供する(需要の拡大につなげる)、(3)環境に配慮した企業行動が評価を受け、利潤を得ることができるような市場を形成する、です。

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北九州市の未来都市構想 資料:北九州市ホームページより

これらはいかにも経済中心で右肩上がりの成長の考え方のようですが、かつての経済成長と違うのは、環境保全、環境配慮、の視点です。今や、経済も経営も、環境を無視しては消費者から支持を受けない時代になったのです。経済界は、社会貢献や環境対応が評価の対象になることを、市場から教えられ、企業行動にも現れています。対応だけでなく環境投資という考え方も不可欠になっています。11月27日(金)の日本経済新聞の企業ランキングでは、評価の基準について「環境や人権問題などへの取り組みもグローバル社会に受け入れられるために不可欠な要素となった」と書いています。

国民(消費者)が、グリーン・エコノミーを評価する時代です。環境経済は正しい評価ができる消費者を育てることも学びの目的の一つにしています。

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