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はじめに
  • 特集

学長 杉林 堅次

大学では、新入生をはじめ学校に登校するのを楽しみにしていた学生のみなさんに、いまどのように学生生活をおくってもらえばよいか教職員一同で考えています。もちろん、私たちにも初めてのことで戸惑いもありますが、頑張っています。考えた対応策は大学のHPなどで随時知らせていますので、こまめにチェックしてください。

さて、今日はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)治療薬の開発状況を簡単に報告しようと思います。ちなみに、新型コロナウイルスはSARS-CoV-2と表記されます。生命科学や医学に関する参考文献などを掲載する検索エンジンPubMedでCOVID-19を検索すると、4月3日現在で2445件ヒットしました。COVID-19やSARS-CoV-2に関してのメディア報道では、感染者数の急増や「3つの密」の重要性などの説明が中心になっています。私は感染症やその治療薬を専門とするものではありませんが、薬学を学び教えているものの一人として、COVID-19治療薬の開発状況についてお示ししようと思います。学生の皆さんもネットを見れば、関係する報告にいくつかヒットするでしょう。しかし、ネット情報には真偽のはっきりしないものも多いので、今日は正しい情報と思われるものについて紹介します。なお、文中で太字にしたものは、特に、薬学、看護学、理学療法学などを学ぶ学生には知っておいてほしい用語ですので、時間を見つけて調べておいてください。自分で調べれば座学の受動的な講義より理解が進むと思います。
もちろん、COVID-19の治療法を確立するための臨床試験は世界各地で急ピッチで進んでいます。皆さんの先輩たちも絡んでいるかもしれませんね。いまは、新規物質を合成し薬理作用を調べるより、すでになんらかの病気に作用することで承認を得ている既存の薬がCOVID-19にも効果を発揮するかについて調べられています。いわゆる効能追加を目指すわけです。このような医薬品の開発法をドラッグ・リポジショニングと呼んでいます。そこで、COVID-19の治療のリポジショニングの状況を調べてみました。

1.レムデシビル:国際多施設共同臨床試験がスタート

国立国際医療研究センターは3月23日、COVID-19を対象とした抗ウイルス薬「レムデシビル」の第3相臨床試験(P3)(米国衛生研究所(NIH)が主導する国際多施設共同臨床試験)の一翼を担うと公表しました。レムデシビルは、エボラ出血熱の治療薬として米ギリアド・サイエンシズ社が開発中の抗ウイルス薬です。MERS(中東呼吸器症候群)SARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性が確認されています。順調にいけば4月中に何らかの中間結果が得られる見通しです。また、この4月3日には欧州医薬品庁が使用することを推奨すると発表しました。

2.カレトラ:抗HIV薬はネガティブな結果に

抗HIV薬のカレトラ(一般名:ロピナビル/リトナビル)の少数を対象にした臨床試験が中国で行われました。ロピナビルはウイルスの増殖を抑えるプロテアーゼ阻害薬ですが、残念ながら標準治療群との間で治療効果に差がないと報告されました。

3.クロロキン:自己投与で死者も

ヒドロキシクロロキンは古くからある抗マラリア薬ですが、強い心毒性があり用量を間違えると心不全から突然死に至る可能性があります。COVID-19に対する小規模臨床試験の結果はネガティブなものが多いですが、東京大医科学研究所は、ナファモスタットがCOVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞内への侵入を阻止する可能性があるとの実験結果を発表。近く臨床研究を始めるとしています。

4.ファビピラビル:中国での臨床試験で良好な結果

日本で開発された抗インフルエンザ薬であるファビピラビル(商品名:アビガン/富士フイルム富山化学、2014年日本で承認)については、SARS-CoV-2陽性で肺炎症状を呈した90例を対象とした臨床試験で良好な結果(3月17日発表)を得ました。ファビピラビルは、インフルエンザウイルスの遺伝子複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑制する薬剤です。COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスと同じRNAウイルスであることから、効果を示す可能性があると期待されています。富士フイルム富山化学と愛知県にある藤田医科大学病院などが軽症~中等症、あるいは無症状の患者を対象とした第3相臨床試験をスタートしています。アビガン単剤のほか、急性膵炎の治療に使われるタンパク分解酵素阻害薬のナファモスタットメシル酸塩(商品名:フサン/日医工など)との併用試験も検討中です。治験は6月にも終了する見込みです。

5.シクレソニド:感染早期~中期の重症化抑制に期待

国立感染症研究所でSARS-CoV-2の複製を阻害することが確認された喘息治療薬である吸入ステロイドの「シクレソニド(商品名:オルベスコ/帝人ファーマ)」も、日本感染症学会の主導で肺に影を認める患者に対する観察研究が計画されています。全国の医療機関から報告を集めて有効性の評価を進めています。シクレソニドは免疫抑制に働くため、本来であれば有効な抗菌剤や抗ウイルス剤が存在しない感染症の患者に対する使用は禁忌ですが、2015年に韓国でMERSがアウトブレイクした際に治療薬の候補として取り上げられました。国内ではダイヤモンド・プリンセス号の患者を受け入れた神奈川県立足柄上病院において、COVID-19早期~中期の患者3人に投与し良好な結果が出たとの報告があります。実は、シクレソニドは体内で代謝されてから作用を発揮するプロドラッグ標的性が高く全身性の副作用が出にくい特徴があります。発症早期の治療に使用することで重症肺炎になる以前に進行を止められる可能性があるので1日も早い臨床試験スタートが待ち望まれます。

6.国際共同大規模臨床試験「SOLIDARITY」開始

WHO(世界保健機関)は医療資源に乏しい国への支援も兼ねて大規模国際共同臨床試験「SOLIDARITY」を立ち上げています。治験対象薬は(1)クロロキンとヒドロキシクロロキン、(2)ロピナビル/リトナビル配合剤単剤(もしくは併用)、(3)ロピナビル/リトナビル配合剤+インターフェロンβのカクテル療法、(4)レムデシビルです。

7.おわりに

いまのパンデミックの真っただ中に世界各国が協力して治療薬を探しています。このような取り組みは人類史上初めてのことといえます。短期間で成果を上げることができれば、世界の感染症対策は根本からがらりと変わるでしょう。

なお、この記事は以下の多くの記事、論文を参考にしています。2次資料として扱ってくれれば幸いです。

【参考資料】

https://answers.ten-navi.com/pharmanews/17853/
https://dime.jp/genre/885683/
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/04/post-92985.php
・Gupta N. et al., Monaldi Arch. Chest Dis., 90(1) (2020). 
・Khalili J.S. et al., J. Med. Virol., (2020). [Epub ahead of print]
・Prajapat M. et al., Indian J. Pharmacol., 52(1), 56-65 (2020). 
・Lim J. et al., J. Korean Med. Sci., 35(6), e79 (2020).
・FitzGerald G.A. et al., Science, 367(6485),1434 (2020). 

【以下の単語を調べてみよう】

・第3相臨床試験
・MERS(中東呼吸器症候群)
・SARS
・抗HIV薬
・プロテアーゼ阻害薬
・抗マラリア薬
・用量
・心不全
・抗インフルエンザ薬
・RNAポリメラーゼ
・RNAウイルス
・タンパク分解酵素
・喘息治療薬
・吸入ステロイド
・アウトブレイク
・プロドラッグ
・標的性
・WHO(世界保健機関)
・カクテル療法
・2次資料

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