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コロナウイルスとは
  • 特集

薬学部 平田 隆弘

学生のみなさん、新学期に張り切って勉強しよう!と意気込んでいたところに、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的大流行(パンデミック)の大きな流れが、日本にも大波として押し寄せて、勉強の前に身の安全を守らなければならない状況に、悶々(もんもん)としている方も多いのではないでしょうか。特に新入生は不安もいっぱいなことと思います。この難局に負けないで協力しながら試練を乗り越えて成長して参りましょう。

感染症に対する不安から、よく「パニックにならない様に」などといいますが、人間は感情的な動物でもありますので、「パニック=防衛本能の変化形」と捉えれば完全になくすことは難しい面もあります。しかし、人間が他の動物と異なるところとして、論理的に、合理的に考える力があります。私は、今、研究室の学生には、「感情(人間らしい温かみを感じる)と合理性(理知的でやや冷たい感じのする)のバランス」を、こういう有事には、合理的な考え方に少しシフトする時期ではないかと伝えています。人間ですので感情をゼロにすることはできません。しかし、物事を感情ではなく合理的、論理的に考える力を養うことで、より冷静に未知の難局に対処できることも事実です。合理的、論理的に考える力は、サイエンス(科学)を行う上での要(かなめ)の力となります。

では、サイエンスに入りましょう。サイエンスの議論をする前には用いる学術用語の意味(定義)の正確な理解が大事です。「COVID-19」をウイルスの名前と勘違いしている人とは議論が噛み合わないことも起こり得ます。
新型コロナウイルスは「SARS-CoV-2」と表記されると習いました。病原体の名前がコロナウイルスである「SARS-CoV-2」であり、疾患名(病気)が、「COVID-19」です。以下に、いくつかの病原体と疾患名との関係をまとめました。

病原体 疾患名
SARSコロナウイルス(SARS-CoV あるいはSARS-CoV-1) 重症急性呼吸器症候群(SARS: severe acute respiratory syndrome)
MERSコロナウイルス(MERS-CoV) 中東呼吸器症候群(MERS: Middle East  respiratory syndrome)
SARS-CoV-2 COVID-19(「新型コロナウイルス感染症」、後日、学術的によりふさわしい和名疾患名が提案される可能性もあるように思います。)
ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus;HIV) 後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency syndrome;AIDS、エイズ)
インフルエンザウイルス インフルエンザ(感染症)
ノロウイルス 感染性胃腸炎、ウイルス性胃腸炎、ノロウイルス感染症

次に病原体についても整理します。結核菌や髄膜炎菌などの「細菌」、いわゆる、かびとも呼ばれる(学術用語としては)「真菌」、今回のコロナウイルスなどの「ウイルス」、マラリア感染症を起こすマラリア原虫等の「原虫」が代表的な感染病原体の分類です。原虫は、生(なま)の魚に寄生しているアニサキスなどの蠕虫(ぜんちゅう)と呼ばれる一群と一緒に分類して、「寄生虫」といった方が一般には馴染みがあるかもしれません。病原体を他にも何か知っていますか?生き物(生物)ではありませんが、いわゆる狂牛病などと呼ばれる、ウシ海綿状脳症の原因は、一般に「プリオン」と呼ばれるもので、物質化学的には皆さんが栄養としてとりいれている「タンパク質」と同一のものなんです。こんなものでも、狂牛病になってしまった牛肉を摂食することで病気の発症の原因にもなります。病原体を広く「ばい菌」と呼ぶことがあると思いますが、学術的には使用しません。

病原体:細菌、真菌、ウイルス、寄生虫(原虫、蠕(ぜん)虫)、プリオンなど

さて、ここで「生物」とは何か、という大きな問題についても考えてみましょう。生物は、細胞を単位とする、自律増殖できる、次世代(子孫)を残す、、、などいろいろ重要な性質があります。ウイルスは、ヒトの細胞などの感染宿主の細胞に侵入して、細胞の増殖システムであるDNA複製系、タンパク質合成系などをハイジャックして、(そういえば、ハイジャックという言葉、最近使いませんね、無理矢理、飛行機等を乗っ取る様な時に使います。)細胞のシステムを乗っ取ることで、感染した細胞に依存しながら増殖していきます。つまり、ウイルスは単独では増えることができない、自律増殖できませんので生物ではないと考えられていることは、ご存じの方もいるのではないかと思います。「ウイルスは生物ではない?じゃあ何?」と聞かれれば、「感染可能な物質」と答えるのが学問的には正しいでしょう。ですから、私は、ウイルスを「殺す」とはいいません。ウイルスを「不活化」するといいます。どこの報道番組でもこんな言い方してませんけどね。

混乱させます。実は、自律増殖できない「生物」がいるんです。クラミジア、リケッチア、オリエンチアとよばれる一群の細菌は、専門的には、「偏性細胞内寄生細菌」と呼ばれ、他の生物、ダニだとかツツガムシだとかの節足動物に寄生して増え、ダニにかまれたりすることでヒトに感染して病気も起こします。でも、これらの偏性細胞内寄生細菌は、ウイルスと同じに自律増殖できないのです。かたや物質、かたや生物とえこひいき、ずるいではないですか。
実は、全ての生物は核酸としてDNAとRNAの両方を持っています。クラミジアなどの「偏性細胞内寄生細菌」もそうです。しかし、ウイルスは、DNAだけRNAだけのどちらか片方だけしか保持していません。コロナウイルスはRNAウイルスと良く聞くと思います。RNAだけ持っています。アデノウイルスやB型肝炎ウイルス等はDNAウイルスです。
他にも違いがあります。全ての生物は、DNAを複製したり、タンパク質を合成したりする際に必要なエネルギー、ATPと言い換えてもいいですが、それを合成します。偏性細胞内寄生細菌も一部不完全なところもありますがエネルギー合成系を持っています。しかし、ウイルスは、もうはじめから自分でATPを合成する気はさらさらない、乗っ取った細胞が合成したATPを利用するだけでその合成に必要な遺伝子など全くないのです。
他にも、ウイルスは、タンパク合成系もない、分裂して増殖するのではなく、ウイルスを構成する核酸(DNAあるいはRNA)やそれを保護するコートタンパク質などの素材(部品)を工場(乗っ取った細胞)で大量に合成して、それが自己集合して(組み立てて)大量に再構築していくという特殊な増え方をし、生物の様に分裂して増えていくということはありません。こういう性質の違いから、かたや生物、かたや物質という違いになっています。もちろん生物だって根本は物質で構成されているんですけどね。

身近な方に「ウイルスは生物ではない」と一生懸命説明しても、感覚的に納得してもらえないかもしれません。「感染するし、増えて移っていくし、生物と同じじゃない。」と反論されそうですね。実は法体系でも同じ様なことがあります。「生物多様性条約」に基づいて環境の生物生態系等に害を与えないことを目的として、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(通称「カルタヘナ」)が施行されています。この法律では、純然たる生物である実験室内などで用いる培養細胞は、環境中に出たとしても環境中では生き残れないために法の体系内では「生物」としては扱われず、一方、学問的には「生物ではない」ウイルスは、遺伝子組み換えウイルスが環境中に、万が一でも漏れ出たら生態系に影響を与える可能性が高いために、法の体系内で「生物」として扱われ、安全に配慮された実験のみが許可されることになります。実社会の感覚に近いですね。

話がそれましたが、ようやくコロナウイルスの話に入ります。お話した様にウイルスは、核酸としてDNAあるいはRNAのどちらかしか持ちません。コロナウイルスはヒトに感染するものとしては、通常の風邪ウイルスとして4種類、SARS、MERSの原因ウイルスと今回のコロナウイルス(SARS-CoV-2)を含めて7種類が知られていますが、全てRNAウイルスです。いわゆるPCR検査では、検体に含まれるRNAを一旦DNAに変換してから遺伝子増幅を行い検査しています。ウイルスの核酸(DNAあるいはRNA)は、裸で存在することはなくコートタンパク質(正式学術名:カプシドあるいはキャプシドcapsid)で覆われています。ノロウイルスなどは、核酸とそれを覆うコートタンパク質だけでウイルス完成形として感染可能です。このタイプのウイルス粒子は消毒に抵抗性のため、アルコール消毒の効果が低く、次亜塩素酸消毒が有効となります。ノロウイルスには、次亜塩素酸です。身近にある漂白剤を薄めて使用することも可能です。海外からの報道で消毒薬を道路や広場に散布している光景を見たことがあるかと思います。一方、コロナウイルスでは、核酸とコートタンパク質を外からさらに覆う「エンベロープ」という膜が必要です。この膜は消毒に弱いため、コロナウイルスやインフルエンザウイルスはエンベロープを持つウイルスですから、適切な濃度のアルコール消毒液で十分ウイルスを不活化することができます。ウイルスの構造を知ることで、脂質二重層で構成される膜(エンベロープ)の物性から、ウイルスの弱点を知り、どうやって消毒すれば良いか消毒薬の選択にもつながります。サイエンスが実社会でも生きているのです。「敵を知り己(おのれ)を知れば百戦危うからず(注:孫子の原典は、彼(かれ)を 知り己を知れば百戦殆う(あやう)からず)」ですね。
エンベロープには、感染過程に重要なタンパク質が存在し、膜に突き刺さっていて、とげとげ様にも見えますので一般的に「スパイク」という名前がついています。コロナウイルスのスパイクは、王冠(ギリシャ語でコロナ)や太陽の光冠(コロナ)のように見えることから、コロナウイルスと呼ばれています。

ご意見、ご感想をkoho@jiu.ac.jpまでお寄せください。
差し支えなければ、所属(学年)とお名前も記載頂ければ幸いです。

参考文献
・ Tratner, I., MEDECINE/SCIENCES., 19:885-891 (2003). 仏語

薬学部 生体防御学研究室 教授 平田 隆弘 (ひらた たかひろ)
担当科目:
微生物学Ⅰ
生体防御学
病原微生物学(看護学部)
生物系実習、病院機能特論演習 ほか

教員紹介ページ

問題:
1.COVID-19の名称の由来となっているもともとの英語はなんでしょうか。
2.病原体の分類と特徴を自分なりにまとめてみましょう。(調べたり、整理することが勉強です)
3.「サイエンスの議論をする際に、大事なことは何か?」考えてみましょう。