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ワクチン開発のお話(その2):ワクチン製造方法とCOVID-19ワクチン開発状況
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看護学部 大森 直哉

みなさんはフランスの生化学者ルイ・パスツールの名前を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。彼はワクチンの予防接種という方法を開発して狂犬病ワクチン、ニワトリコレラワクチンを発明したことで知られています。人は、細菌やウイルスなどの異物から身を守る防御システムとして「免疫」という機能を持っています。免疫は異物が体内に侵入してきたとき、監視の役割を担う細胞が異物の一部を感知して攻撃を担当する細胞に指令を出します。そして攻撃を担当する細胞によって異物が排除されます。さらに、免疫は一度覚えた異物を忘れません。再び異物が侵入してきたとき、異物を記憶した攻撃を担当する細胞が働き速やかに異物を排除します。この防御システムを利用してウイルスを撃退もしくは症状を重症化しないようにするのがワクチンの考え方です。今回はとくに、ウイルスに対するワクチンについて話を進めて行きたいと思います。

 

1.ワクチンとは

ワクチンには「生ワクチン」と「不活化ワクチン」の2種類があります。生ワクチンと不活化ワクチンでは、ウイルスの病原性を弱めたものを使う(=生ワクチン)か、病原性をなくしたウイルスの一部を使うか(=不活化ワクチン)という違いがあります(図参照)。先ほど述べたように、ウイルスは異物ですので、ウイルスには人の免疫が異物として感知する部分があります。生ワクチン・不活化ワクチンのいずれも免疫が感知する部分を残したものを、ウイルスに感染する前に人に接種して免疫を担当する細胞に覚えさせておき、いざウイルスが侵入してきたときに排除させるという寸法です。現在使われている生ワクチンにはロタウイルスワクチンや水疱瘡(みずぼうそう)ワクチンなどがあり、一方、不活化ワクチンにはB型肝炎ウイルスワクチンやインフルエンザワクチンがあります。なぜ2種類あるかというと、ウイルスの免疫に感知されやすい部分の特徴の違いがあるからです。それぞれのウイルスに適した方法でワクチンが作られているというわけです。

2.ワクチンの製造法:パンデミックに対する現状と技術開発

ワクチンの製造方法として、鶏卵でウイルスを増やして作る方法(例:新型インフルエンザワクチン)、ネズミにウイルスを接種し増やして作る方法、細胞にウイルスを感染させて増やして作る方法(例:水疱瘡ワクチン)、そして遺伝子組換えによって作る方法(例:B型肝炎ワクチン)の4つがあります(下図)。ウイルスによって適したワクチン製造方法が異なっていて、パンデミックがいつ発生してもおかしくないとされてきた新型インフルエンザに関しては鶏卵を使う方法が準備されてきました。しかし、この方法は大量の鶏卵を準備しなければならないことや製造に6ヶ月~12ヶ月の期間を要することから¹より早く大量のワクチンを製造できる方法の開発が進められてきました。塩野義製薬の子会社UMNファーマ社が新型インフルエンザのために開発した昆虫細胞を使う方法は迅速かつ大量にワクチンを製造可能で、今回のCOVID-19ワクチンへの応用が期待されます。一方、アメリカでは昆虫細胞や植物細胞を用いたインフルエンザワクチンの製造がすでに承認されていることに加えて、遺伝子組み換えによって製造された複数のワクチンが現在臨床試験中です。今回のCOVID-19ワクチン開発に関しては、遺伝子組み換えによるワクチンの開発が先行しています。しかし、遺伝子組み換えによるワクチンについても大量のウイルス(この場合は人に悪さをしない、免疫を引き起こす物質の運び屋として使います)を必要とすることから、ワクチン製造(=運び屋ウイルス製造)の効率化が克服すべき課題となっています。さらには、運び屋としてウイルスを使うことから安全性についても注意深く見ていく必要があります。これら技術が進展しパンデミックに対応したワクチン製造方法が確立されることが期待されます。

 

3.COVID-19ワクチンの開発について

ワクチンも薬の一種でありワクチン開発には時間がかかります。その理由は効果と安全性(=副作用)を十分に確認する必要があるからです。もちろん、「リスク(副作用)/ベネフィット(効きめ)」の観点から、効きめが十分に期待できる場合にはリスク(副作用)があっても薬として承認されることがあります。例えば、副作用の強い抗がん剤などがその例です。「リスク/ベネフィット」を明らかにするため、一般的に、細胞実験や動物試験から始まり、健常な人あるいは対象疾患に罹患している人に薬を投与する3段階の試験(第1相試験、第2相試験、第3相試験)を実施し、当局の審査を受けて承認されるという流れを経て薬が患者さんのところに届きます。COVID-19に対するワクチンの開発は、現在世界中で急ピッチに進められていますが、人に投与する試験を考えればこれからおそらく1年~1年半くらいの開発期間は必要だと思います。

4.COVID-19ワクチンの開発状況

 

・海外での開発状況
【mRNAワクチン、DNAワクチン】
米国マサチューセッツ州ケンブリッジ、MITにほど近い場所に本社を置くModerna社は国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同開発したmRNAワクチン「mRNA-1273」の第1相試験を3月16日に開始したと発表しました²。Moderna社のプレスリリースによると、2020年1月11日にCOVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の塩基配列を中国から入手したのち、2日後にワクチンのためのmRNA-1273を決定、同時に当局から第1相試験の承認を得ています。そして2月24日には第1相試験用のワクチンが試験機関に送られ、当局の承認を得て3月16日に試験が開始されました。異例の速さと言えますが、これはもともとModerna社が持っていたワクチン技術(Youtubeで見ることができます³)をCOVID-19ワクチンに応用することができたことから短期間で試験が開始できたのです。それでもModerna社は一般の人に接種できるようになるまでに12か月~18か月かかると見積もっています。

Inovio Pharmaceuticals社(米国 ペンシルバニア州)は、2020年3月3日にDNA ワクチン 「INO-4800」の開発スケジュールを発表しました4。それによると、1月10日にウイルスの情報を得た後、2月29日までに動物実験を終了しています。4月からは人での試験をアメリカ・中国・韓国で開始、秋にはその結果をまとめて年末までに100万回投与分を準備する予定であるとのことです。Inovio社はMERS(中東呼吸器症候群:コロナウイルスの一種)のワクチン開発を第2相試験まで進めていたことから、その技術をCOVID-19に応用して年内のワクチン提供を目指しているとのことです。既存の技術をCOVID-19に応用するという点でModerna社と同じ開発のアプローチになりますが、MERSワクチンの開発ですでに第2相試験まで終えていることから、もしかするとModerna社よりも早く私たちが利用できるかもしれません。

世界第二位の製薬メーカーであるPfizer社もドイツのBioNTech社と共同でCOVID-19ワクチンの開発に乗り出しています。彼らの開発しているワクチンもModerna社と同じくmRNAワクチンです5。Pfizer社の発表によると2020年4月末までに人での試験を開始する予定とのことですが、こちらはModerna社のような詳細な開発スケジュールを公表していないことから、第1相試験の結果次第というところでしょうか。

Pfizer社に及ばないまでも同じく世界的な製薬メーカーであるJohnson & Johnson社は、エボラ出血熱ウイルスワクチンやHIVウイルスワクチンの開発で培った技術(DNAワクチン)を利用してCOVID-19のワクチン開発を目指しています6。2020年9月に人での試験を開始できるよう準備を進め、2021年初頭に緊急用として利用可能となるよう開発を進めています。

欧州に目を転じると、ドイツのワクチンのベンチャー企業であるCureVac社(ドイツ、チュービンゲン)がCOVID-19ワクチンの開発に取り組んでいます。CureVac社の名前を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。それもそのはず、3月にトランプ大統領がこの会社の研究結果を買い取ってアメリカだけに提供するように求めたと報道された会社です。開発しているのはModerna社と同じくmRNAを使ったワクチンです。開発についての具体的なスケジュールは公表されていませんが、現在動物実験の段階で人での試験には少し時間がかかるようです。

【ナノ粒子ワクチン】
メリーランド州ゲイサーズバーグに本社を置くワクチン会社のNovavax社は、インフルエンザなどの他のワクチンで第3相試験を実施してきたナノ粒子(非常に小さな粒子のことです)ワクチン技術を利用したCOVID-19ワクチンの動物実験を実施中であることを発表しています7。ただ、このワクチンは免疫反応を呼び起こす“アジュバント”という物質と混ぜて投与することも検討しているようで、ナノ粒子ワクチンだけでの効果が得られるかどうかは動物実験の結果次第ということのようです。こちらも2020年4月末に第1相試験を開始する予定です。

ご紹介した会社のほかにも、豪クイーンズランド大、英オックスフォード大、香港大、仏パスツール研究所・豪テーミス・米ピッツバーグ大のグループといった大学機関でもCOVID-19ワクチンの研究が行われています。

・国内での開発状況
大阪に本社を置くアンジェス株式会社は、遺伝子治療薬の開発を得意とする会社です。その技術を応用してCOVID-19のDNAワクチンの開発をすることを3月5日に発表しました。また、田辺三菱製薬は、3月12日にカナダの子会社のメディカゴ社がSARS-CoV-2ウイルスに似た粒子(免疫反応だけを起こします)の作製に成功したと発表しました。すでに動物実験に取り掛かっていて、8月に人での試験を開始したいとしています。国内での開発状況は2社のみ、海外から遅れを取っていることもあって国産ワクチンが私たちの手元に届くかどうか微妙なところです。

参考資料
1. インフルエンザワクチンの製造と課題、財団法人 阪大微生物病研究所 奥野良信著
2. https://www.modernatx.com/modernas-work-potential-vaccine-against-covid-19
3. https://www.youtube.com/watch?time_continue=99&v=qJlP91xjvsQ&feature=emb_title
4. http://ir.inovio.com/news-and-media/news/press-release-details/2020/Inovio-Accelerates-Timeline-for-COVID-19-DNA-Vaccine-INO-4800/default.aspx
5. https://www.businesswire.com/news/home/20200316005943/en/
6. https://www.jnj.com/johnson-johnson-announces-a-lead-vaccine-candidate-for-covid-19-landmark-new-partnership-with-u-s-department-of-health-human-services-and-commitment-to-supply-one-billion-vaccines-worldwide-for-emergency-pandemic-use
7. https://ir.novavax.com/news-releases/news-release-details/novavax-awarded-funding-cepi-covid-19-vaccine-development

問題
1.皆さんが、インフルエンザワクチンを受けるときの問診票に、「薬や食品(鶏卵、鶏肉など)で皮膚に発しんやじんましんが出たり、体の具合が悪くなったことがありますか。」という設問がありますが、なぜか考えてみてください。
2.ワクチンは、治療というより予防効果を期待しますが、「感染」→「発病」→「重症化」のどこを抑えることができるか、調べて考えてみてください。合わせて、ワクチンの有効率についても調べてみてください。
3.インフルエンザワクチン接種によってインフルエンザを発症することがあるか、考えてみてください。