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この「和忍(わにん)の心」では、空手に関係するコラムや空手道部のニュースなどを紹介するページにしていきたいと思います。 ◆国際大会で忘れられた武道の心
記:監督七井誠一郎
2007年8月4日-5日に北欧のノルウェーベルゲン市で開催された千唐流宗家杯国際空手道選手権大会に出場する小川資弘選手とともに参加してきました。小川君は、高校まで野球に打ち込み、大学から空手を始めた学生ですが、今回はカナダ選手、オーストラリア選手との激闘の末、個人有級組手の部、形の部で準優勝に輝いたことは誠に嬉しいことでした。 さて、小川君よりもずっと空手の経験のある選手達の大会での活躍について、今日は一考したことをご紹介したいと思います。 大会のメインイベントも言える国別対抗の男子団体組手で、予想通り日本とカナダ、オーストラリアチーム、ノルウェーが激闘を繰り広げ、決勝戦にはカナダと日本が残りました。5人一組で戦い3勝すれば勝敗が決まる団体組手で、残念なことに日本チームが先に2敗を喫し、残る3人全員が勝たなければならないという非常に厳しい試合運びとなりました。もはやこれまでかと皆が思い始めた時、日本チームは粘り強く試合を運び、ここぞという勝負強さを発揮し、見事に3連勝をやってのけて優勝を果たしたのでした。大変立派な活躍ぶりで、なかなか見ることができない素晴らしい試合の連続でした。 そして、外国で見せた日本人空手家達の技に観客は大喜びし、大喝采を送ってくれました。本場の空手を大いに喜んで下さっての大喝采だったと思います。 日本人選手たちも本当に厳しい試合を制し喜びも大きく、選手も応援団も一緒になって大喜びでした。そして、相手の選手と礼をして試合を終えると同時に胴上げを始めてしまったのでした。あまりの喜びに周囲が見えなくなってしまったのです。 私はこの連盟の国際議長として壇上で試合を見る立場にありましたが、選手の気持ちは十分に理解できましたが、「これは困った!」と思ったのも事実でした。武道は、野球やサッカー等のスポーツと違い「礼節」を何よりも重んじなければなりません。試合は相手への尊敬の念を持って、最後までおこなわなければなりません。宗家(流派の最高指導者)をはじめとする教士や外国人指導者たちも眉間にしわを寄せてしまいました。諸先生方より目で注意を与えよとのサインを送られ、大騒ぎになる前に慌てて選手を諌めたということがあったわけです。 非常に厳しい試合展開の中で、大接戦を制したので喜びも格別なものであったと思います。もし私自身があの中にいたら、やはり大喜びをして歓喜を表していたかもしれません。なかなか難しい場面であったと思います。 スポーツでは、自分の感情をあらわにして勝負にまい進する姿が美しいとされるかもしれません。しかし、武道の世界では自己をコントロールすることが何よりも尊重されます。むき出しの感情や闘志を試合で見せれば反則になり、武道の修行が足りないと評されます。「勝って驕らず、負けて腐らず」といった価値観が尊重される武道の世界において、自己の感情に流されることはもっとも避けなければならなかったのだと言えます。武道の世界では、四つの戒めを四戒(しかい)と言います。自己の心が「驚き、恐れ、疑い、惑う」の四つの状態になると身体が自由に動かなくなることから、心の状態を常に平常心に保つことが求められます。 本大会の翌日には、流派の各国代表と国際会議を開催したのですが、その際には、宗家をはじめとして日本人指導者達が指導力不足を認め謝罪し、皆で武道家のあるべき姿を確認しあうこととなりました。 武道ブームや古き日本人の姿を見直す動きが最近の流行であるように思いますが、なかなかそれを実行するには、難しいものがあることを改めて痛感した出来事でした。「何のために空手を学ぶのか、武道とは何なのか」を改めて考え直す機会になった出来事でした。 団体組手で敗北したものの日本選手に向かって深々と一礼をして、大喜びする日本人選手に対して観客と一緒になって拍手を送り続けていたカナダ選手の武道家としての振る舞いに感服した次第でした。 (2007年8月15日) 戻る |