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Newsletter vol.9 出版物・広報誌

城西国際大学の教育研究活動に関する情報を発信するNewsletter。毎号、全7学部共通のキーワードを軸に研究者たちの多様な取り組みを紹介します。

今号のテーマ「回復力」
災害や感染症、経済不安など不確実性が常態化する今、必要なのは困難から立ち直り適応する「回復力」です。変化に対し、社会や暮らしをどう組み立て直すのか。本学の教員が専門領域から多角的に考察します。

   

Highlight【東京のまちづくり】経営情報学部 総合経営学科 教授 黒澤武邦「「稼ぐ力」を呼び覚ますナイトタイム観光 次世代の観光経営人材育成へ」

訪日外国人客数がコロナ前を上回って推移する昨今、日本の観光は「数の復元」から「質の向上」へとフェーズが移っています。観光における「回復力」の本質とは、単に以前の状態に戻ることではなく、オーバーツーリズムなどの新たな課題を乗り越え、激化する世界的な都市間競争の中、より付加価値の高い都市構造へ進化していく力にあります。その鍵を握るのが、午後6時から翌朝6時までを戦略的にデザインする「ナイトタイム観光」です。観光客を時間的に分散させることで、都市の受け入れ容量を実質的に広げる有効な解決策になります。

ドバイの展望施設では、優先入場とラウンジ利用付で2万円を超える高単価消費が生まれています。シンガポールの郊外では、夜だけ開園する動物園ナイトサファリを中心に高級リゾートホテル開発が進んでいます。夜に人が集まる拠点を核に、ホテル、買い物、飲食、エンタメ施設をつなげ、一晩で複数の体験をシームレスに提供する設計が工夫されています。一方の東京は、観光資源は豊富ながらも、それらが「点在」しているのが現状です。移動の煩雑さや決済手段の不統一といった「小さなストレス」の積み重ねが、本来得られるはずの満足度と消費機会を損なわせる要因となっています。

都市の回復力を持続可能な「稼ぐ力」へと昇華させるためには、バラバラな資源を一つのストーリーとしてつなぎ合わせる「経営の視点」を持った人材が欠かせません。本学では2024年度から、都の「大学等と連携した観光経営人材育成事業」を3カ年計画で受託しています。行政や民間の実務家が参加する本講座では、都市全体の動線を捉える視点を共有し、2025年度には六本木・麻布台・虎ノ門エリアでのフィールドワークを通じて、夜の人の流れを分析しています。今後は、学びの成果を形として示すサーティフィケイト・プログラムの開発も進めていく予定です。

 

▲観光経営人材育成事業の講座の模様

▲虎ノ門ヒルズで開かれたフィールドワーク

 

<専門分野・研究テーマ>

都市計画、観光まちづくり、公共政策、政治・政治形成プロセス

<キーワード>

ナイトタイム観光、観光経営人材育成事業、サーティフィケイト・プログラム、東京都

   

【韓国】国際人文学部 国際文化学科 助教 禹隠喜 「多様化する有権者ニーズ 政党政治のサバイバル戦略とは」

アジアの民主主義における政党政治や選挙について研究を進めています。政党は有権者に選ばれ続けなければ生き残れない組織であり、近年は有権者のニーズが多様化する中で、常にサバイバル状態にあります。特に韓国では、大統領が直接選挙で選ばれるため、政権の失敗は政党全体の危機を引き起こします。2017年の朴槿恵大統領の弾劾はその典型であり、政党の存続や再編成に大きな影響を与えました。朴政権の崩壊後、保守政党は消滅するのではなく、組織を再編成し、尹錫悦政権へとつながりました。李在明政権のもとでも、今後、二大政党の一角として生き残るには、保守系野党「国民の力」が、統一と再編成を軸に、柔軟な政策提示や新たな支持基盤の構築にどこまで取り組めるかが問われています。これらの戦略は、政党の回復力を示す重要な要素であり、次回の選挙に向けた基盤を築くための鍵となるでしょう。

 

▲学会で「韓国における候補者選出の民主化と能力主義的民主主義の出現」をテーマに発表すある禹助教(右)

<専門分野・研究テーマ>

政党政治、選挙、韓国政治

<キーワード>

民主主義、政党政治、組織の再編

   

【教育の断絶】国際人文学部 国際交流学科 教授 川野有佳 「月経を「タブー」から「学び」へ 南インドで見えてきた課題と変化」

インドでは、月経にまつわる知識不足や月経期の不十分な衛生環境が原因で、女児が学校を欠席し、教育の機会を失う現実があります。私は開発学・ジェンダー研究の立場から、この教育の断絶を食い止めるための月経教育や衛生的な月経管理のあり方を研究しています。現地では近年、月経を「語れないもの」から「学ぶもの」へと捉え直す動きがあります。ただ、教材が作られても農村部などでは学校現場に届かない実態も明らかになってきました。私は教員や教材の制作者らへの聞き取りを通じ、知識が現場に届かない要因を分析し、月経についての学びを学校教育に根づかせる手法を探っています。月経の学びは、女児が身体の変化や社会的な制約に直面しても、学びの場に留まるための回復力の源泉です。教育環境そのものを再設計し、すべての子どもが社会から切り離されない環境を整えること。その実現に向けて、研究を深めています。

 

▲インド農村部の子どもたちと交流する川野教授

<専門分野・研究テーマ>

開発学、ジェンダー研究、地域研究(南アジア・インド)

<キーワード>

月経、月経衛生管理、学校教育、思春期女子、インド、タミル・ナードゥ州

 

【逆境】観光学部 観光学科 特任教授 西和彦「危機と再建で得た『回復』の哲学 学生のキャリア形成に還元」

 

 

本学奉職前のJAL(日本航空)での約35年間で、私は1985年の123便墜落事故における遺族対応や2010年の経営破綻から再上場という、まさに組織の「生と死」に向き合う経験をしました。これらの経験から導き出した私の「回復力」の定義は、単に元に戻ることではなく、「逆境を糧に、以前より良い状態を築く力」です。JAL時代、執行役員として断行したリストラや、苦渋の決断など、回復の過程には、痛みを伴う選択に向き合う覚悟が不可欠でした。しかし、現状を客観的に分析し、真因を突き止めて適応するプロセスこそが、個人や組織を劇的に進化させる好機となります。現在、私はこの教訓をキャリア形成の授業を通じ、学生たちに伝えています。不確実な時代を生き抜くために、失敗を恐れず、目的を持って自らの足で歩み出す「折れない心」を次世代の力へと少しでも変えていければと考えています。

 

▲学生の就職活動を支援する西特任教授(左)
 

<専門分野・研究テーマ>

旅行マーケティング、航空事業運営

<キーワード>

原因分析と振り返り、痛みを伴う意思決定、企業経営の現場経験、キャリア形成

 

【プロジェクションマッピング】メディア学部 メディア情報学科 助教 中村陽介「映像技術でつなぐ表現と記憶 舞台演出に生かす3DCG」

昨年11月、山梨で開かれた「山の都ふれあいコンサート」で、演劇公演の舞台演出に3次元コンピュータ・グラフィックス(3DCG)を使ったプロジェクション・マッピングを取り入れました。山梨、浅間神社の無形文化財である河口の稚児の舞を題材に、コノハナサクヤヒメや馬、富士山といった要素を舞台用の映像として制作しました。制作した映像は立体的に再構成する3Dガウシアン・スプラッティング(3DGS)という技術を用いることで、現実の浅間神社と幻想的な3DCGの世界との融合をイメージしやすくなり、演劇表現を支える要素にもなりました。舞台関係者からは「映像に迫力があり、CGと演劇を融合させた表現が印象的だった」といった声も寄せられています。地域の物語や人の表現を、今の技術でそっとつなぎ直していくことが、忘れられかけていた文化や場が、もう一度動き出すきっかけになるのではないかと考えています。

 

▲第45回「山の都ふれあいコンサート」で投影したプロジェクション・マッピング

<専門分野・研究テーマ>

3DCG、ゲーム及びインタラクティブコンテンツ開発

<キーワード>

3DCG、ガウシアン・スプラッティング、プロジェクション・マッピング

 

【消化管】薬学部 医療薬学科 教授 田嶋公人 「現代社会を映し出す胃の不調に挑む 薬理学と食事の力で内側から整える」

腹痛や胃もたれといった症状が続いても、検査では明確な異常が見つからないストレス性胃腸機能障害「機能性ディスペプシア」。多くの人を悩ませるこの不調の正体を、私は薬理学の立場から追究しています。ストレスが及ぼす生体への影響を調査し、胃粘膜での微細な炎症がその症状の一因であることを実験モデルを用い明らかにしました。この研究成果は、2025年9月の「第26回 応用薬理シンポジウム」で優秀発表賞をいただくなど、高い評価を得ています。薬は症状を改善する重要な手段ですが、日々の「食」もまた、体内で作用し状態を整える力を持っています。私は、不調に陥ってから治すだけでなく、薬と食の両面からアプローチし、揺らぎにくい消化管の状態を維持するのが「回復力」だと捉えています。症状が出てから治す対症療法を超え、日常から胃腸の健やかさを支える新しい予防の形を、研究を通じて社会へ届けていきたいと考えています。

 

▲田嶋教授が進めるストレス性胃腸機能障害の発生を防ぐ食材・食品の開発

<専門分野・研究テーマ>

薬理学

<キーワード>

ストレス性胃腸機能障害、機能性ディスペプシア、胃粘膜炎症、応用薬理シンポジウム、薬と食

 

【居場所】福祉総合学部 福祉総合学科 准教授 森山拓也「街のベンチから始まる支援の輪 孤立を防ぎ「つながり直す」コミュニティへ」

精神保健福祉の現場で私が追求しているのは、病気を「治す」ことだけをゴールにするのではなく、地域の中で人と関わりながら、自分らしく生きる「リカバリー」の支援です。その拠点となる「ホッとステーション」事業では、誰もが安心して立ち寄れる居場所づくりに取り組んでいます。特徴的なのは、支援への心理的障壁を下げる工夫です。例えば、街のベンチに相談先へつながるQRコードを設置し、「誰かに話したい」と思ったときに自然と助けを求められる仕組みを整えています。似た経験を持つ者同士が支え合う「ピアサポート」の関係性も自律的な生活を支える大きな力となります。困難を乗り越える力とは、決して一人で耐え忍ぶことではありません。他者とつながり直し、共に歩む中で育まれる「しなやかな強さ」のこと。支援する側もされる側も孤立させない、温かな地域のエコシステム構築を目指しています。

 

▲ホッとステーションを紹介するチラシ
 

<専門分野・研究テーマ>

精神保健福祉、精神障害リハビリテーション

<キーワード>

ホッとステーション、居場所づくり、ピアサポート

 

【呼吸リハビリ】福祉総合学部 理学療法学科 助教 山根主信 「息苦しさを「生きやすさ」へ 小児喘息ケアが支える、親子の日常」

呼吸リハビリテーションは、息切れなどの苦しさを軽減し、日常生活を支障なく送る力を取り戻すための支援です。しかし、認知度の低さや実施施設の不足により、必要とする人々に十分には行き届いていない現状があります。私は現在、小児気管支喘息における呼吸リハビリの効果検証に取り組んでいます。突然の発作や夜間の咳への不安は、子どもだけでなく保護者の生活の質(QOL)にも影響します。調査では、薬物療法以外に家庭でできる具体的なケアを求める切実な声が多く聞かれました。こうしたニーズに応えるために、「小児喘息呼吸リハビリテーションガイド」を作成し、医療現場への導入を進めています。正しい呼吸法や運動の知識を備えることは、病気に振り回されず、親子が自らの力で日常を立て直す回復力の基盤となります。誰もが適切な支援を手にし、健やかに暮らせる社会を目指しています。

▲山根助教が作成した呼吸リハビリテーションガイド

<専門分野・研究テーマ>

呼吸リハビリ

<キーワード>

呼吸リハビリテーション、小児気管支喘息、生活の質(QOL)

 

【災害】看護学部 看護学科 准教授 山村美恵子「学生と教員が動かす避難所のかたち 地域へ広がる大学発の運営モデル」

城西国際大学が災害時の指定避難所になっていることから、看護学部と薬学部が連携し、大学をモデルにした避難所運営マップを作成しました。能登半島地震では避難生活の中で体調を崩して亡くなる災害関連死も多く報告されています。避難所で座り続けることで起こるエコノミークラス症候群や褥瘡は、“防げたかもしれない命”につながります。マップ作りでは、誰がどこで過ごすのか、どこまでを支援し、何を被災者自身で担えるのかをよく議論し、休める場所や体を動かせる導線、声かけの工夫なども盛り込みました。ポイントはすべてを支援するのではなく、被災した人が本来持っている力を生かすことが、心身の回復につながるとの考えです。完成したマップを大学祭などで紹介したところ、「いざという時に心強い」といった地域住民の声が聞かれ、学生の間では災害をテーマにしたサークルを立ち上げる動きも生まれています。
 

▲避難所運営マップ作成メンバー

<専門分野・研究テーマ>

老年看護、災害看護

<キーワード>

避難所運営、災害、災害関連死、避難所運営マップ