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オリーブ Research

「オリーブ産地化に取組む千葉県東金地域の物語」 

 

〔プロローグ〕 

『植木のまち東金』 といわれる千葉県東金市で、2014年からオリーブ産地化に向けた活動が始まった。新たなブランドの構築や地域活性化を目指したこの活動は、冷害や虫害、風害、特に2019年秋の房総台風による被害など、さまざまな困難との闘いの連続だった。そこで2020年には、再起をかけて組合を設立し、大学との連携も始まり、2023年秋に収穫量がはじめて1トンを超えた。しかし、その収穫量を維持することは難しく、今もさまざまな努力を続けている。 

本連載では、オリーブの魅力、オリーブとの付き合い方、そして東金市におけるオリーブ産地化に向けた活動について紹介する。農業・ものづくり・観光・教育・ヘルスケアなどオリーブ産地化に関わるあらゆる分野において、『いかに価値を育て、どのようにつなげていくか』 という問いは共通している。本連載では特に、この問いに対して、人々がどのように向き合い解決しようとしているか、を伝えていきたい。 

大切に育てられたオリーブは、樹齢千年となっても果実を実らせる。本連載を通じて、多くの人々がオリーブに関心を抱き、世代を超えてオリーブと関わり続けることを願うものである。 

2026年5月吉日 

文責:光本篤史(城西国際大学薬学部・教授、東金市産オリーブの地域ブランディング推進事業・アドバイザー) 
協力:東金市役所経済環境部農政課、東金市オリーブ組合、東金元気づくり株式会社(道の駅 みのりの郷東金) 


〔第1部〕 オリーブの魅力:なぜ、オリーブなのか

第1部では、オリーブの奥深い魅力を、身近な視点から丁寧にひもといていく。

【第1回】 オリーブ ― 平和・勝利・生命力のシンボル

第1回は、古くからさまざまな物語に登場するオリーブの逸話から、象徴となる背景のストーリーや現代社会での活用方法について、紹介する。

オリーブは、古くは旧約聖書 『創世記』 “ノアの方舟(はこぶね)” の説話に登場する。洪水から逃れるために家族や動物たちと方舟に乗り込んだノアは、しばらくして方舟から鳩を放つ。1回目に放った鳩はすぐに戻ってきたが、2回目に放った鳩が “オリーブ” の小枝を加えて戻り、3回目に放った鳩が戻ってこなかったことから、ノアは、『ようやく洪水が止み、地上で暮らすことができる』 と悟った。この説話から、オリーブは ”知恵” や “平和のシンボル” といわれるようになった。

その後 ”白い鳩とオリーブの枝” のモチーフは、20世紀を代表する巨匠 パブロ・ピカソ が1949年に描いたリトグラフ “平和の鳩” により、平和のシンボルとして世の中に広まることとなった。現在、国連が提唱するSDGsの16番 『平和と公正をすべての人に』 のシンボルマークにも、白い鳩とオリーブの枝のモチーフが活用されている(図1)。

また、ギリシャ神話(紀元前千年頃)によれば、大神ゼウスから 『人々にとって最も役に立つものは何か』 と問われた女神アテナは、 『オリーブは闇夜を照らす光となり、傷みを和らげ、香り高く、そして口にすれば貴重な食料になる』 と答えたという。このようにオリーブオイルは、灯火、薬用または食用として、ギリシャ文明を支える貴重なものであった。

さらに、古代ギリシャで開催されたスポーツの祭典 “オリンピアの闘い” では、勝者にオリーブの枝が捧げられていたことから、オリーブは “勝利のシンボル” でもあった。近代オリンピックやマラソン大会でも、スポーツ競技の勝者を称え、メダルとともに “オリーブクラウン(冠)” が捧げられている。なお、植物の枝葉で作る冠というと、月桂樹の冠も有名だが、月桂冠は、学術や芸術の祭典で提供されるといわれている。どちらも勝利のシンボルである。

オリーブは、痩せた土地でも根をはり、育ち、大切に育てることにより、千年を超える樹齢でも実をつける(図2)。長命であり、傷んでも再生する力が強いことから、“生命力のシンボル” ともいわれる。オリーブは、先祖から受け継ぎ、後代に継承されていく。オリーブは単なる農産物ではなく、歴史を刻み、文化を醸成し、暮らしを豊かにする “人々の宝” である。
次回は、オリーブ栽培地域の変遷について紹介する。

図1 SDGs16番のシンボルマーク 

図2 千年大樹 (小豆島ヘルシーランド株式会社所有、筆者撮影) 

〔参考資料〕 
オリーブオイルの歴史から、オリーブオイルの品質や健康効果などについてまとめられた書籍。オリーブの世界を知る貴重な資料として掲載させていただく。 
1) 「オリーブの歴史」 ファブリーツィア・ランツァ著, 伊藤綺訳, 原書房 (2016) 
2) 「オリーブのすべて」 横山淳一・松生恒夫・鈴木俊久著, 幸書房 (2018) 

 

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【第2回】 オリーブ栽培地域の変遷 ― 小アジア、地中海沿岸地域、そして日本へ 

第2回は、オリーブの栽培地域に焦点を当て、歴史的な変遷を踏まえて紹介する。 

オリーブは、今から約7千年前にはすでに栽培されていた1)。第1回で触れたように、約3千年前の古代ギリシャ時代には、人々に光や食、薬をもたらす貴重な植物として大切にされ、ギリシャやローマ帝国の商人たちにより、地中海沿岸地域へ広められた。これらの地域は、栽培・加工技術を磨き、継承するとともに、独自の食文化を確立したことから、ギリシャ・イタリア・トルコ・チュニジア・スペインといった国々は、世界の主たるオリーブ生産国となった (図1)。 

地中海性気候は、『年間を通じて温暖で四季があり、夏涼しく雨が少なく、冬は寒くなりすぎず雨が降る』 ことを特徴とする。オリーブの栽培はその後、地中海沿岸に限らず、同じく地中海性気候の北米大陸西岸のカリフォルニア地方や南米大陸のチリ・オーストラリア西南端などといった地域にまで広がった。 

さて、日本で本格的に、オリーブ栽培が行われるようになったのは、20世紀初頭に北方海域の漁業権を得たことによる。魚の缶詰を大量に作るためにオリーブオイルが必要と考え、国策として鹿児島・三重・香川の3県でオリーブの栽培を開始した。当時、定植に成功したのは、地中海地域によく似た気候の瀬戸内海に位置する小豆島だけであり、日本のオリーブ産地といえば小豆島を思い浮かべる人が多い(図2)。現在でも、日本のオリーブ生産量約440トン(2022年)の85%ほどは小豆島のある香川県で生産されている2)。 

1990年代の “イタ飯ブーム”、そして、2010年以降の ”健康志向” により、オリーブオイルの国内需要は高まり (図3)、その消費量は年間約4万2千トン(2025年)に上る3)。しかし、日本のオリーブオイル生産量は40トンにも満たないため、99.9%以上を輸入に頼っている2,3)。新型コロナ感染症や気候変動による干ばつの影響で一時的に輸入量が減少したが、日本におけるオリーブオイル市場の大きさと発展性が見込まれ、地中海性気候以外の地域でも栽培できるノウハウが確立してきたことから、近年、オリーブ生産に取組む地域が急速に広まり、今では47都道府県でオリーブ栽培がおこなわれている。 

次回から第6回までの4回にわたり、健康志向でオリーブオイルの需要が高まる理由について、化学的な観点から理解を深めていく。

図1 地中海沿岸地域の国々 (*橙色:ケッペルの気候区分 “地中海性気候Cs”、筆者作図)

図2 小豆島オリーブ公園からの眺望 (筆者撮影)

図3 日本におけるオリーブオイル輸入量の年次推移 (*財務省貿易統計データ4)より筆者作図)

〔参考資料〕
1) “Early production of table olives at a mid-7th millennium BP submerged site off the Carmel coast (Israel). Sci Rep, 11, 2218 (2021)
2) 農林水産省特殊果樹生産動態等調査 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/tokusan_kazyu/  (閲覧日:2026年5月18日)
3) 「植物油の基礎知識 植物油の道 ‐植物油の生産から消費まで‐ 6. 日本の植物油事情」 日本植物油協会 https://www.oil.or.jp/kiso/seisan/seisan06_01.html (閲覧日:2026年5月18日)
4) 財務省貿易統計、統計品別推移表 https://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm?M=77&P=0 (閲覧日:2026年5月18日)

 

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