教員活動
2026.03.30

「山の都ふれあいコンサート『なでしこの花が咲くとき』」(2025年11月30日)
本学メディア学部の望月純吉准教授が代表を務める、2025年度学長所管研究費研究奨励事業「ユニバーサル演劇とXR技術の融合による新たな包摂型文化体験の創出」が、2025年11月30日、山梨県立YCC県民文化ホール小ホールにおいて実践されました。本研究は、メディア学部の多様な芸術分野とXR技術を融合し、障がいのある人、学生、地域住民が協働する新たな文化体験モデルの構築を目的としています。
本研究の背景には、SDGsや国内政策において重視される「文化的包摂」と「多様性の推進」があります。従来の舞台芸術では、鑑賞者と出演者、健常者と障がい者といった分断が存在しがちでしたが、本研究ではユニバーサル演劇の考え方とXR(クロスリアリティ)技術を組み合わせることで、誰もが参加・共有できる新しい表現のあり方を提示し、社会的連帯の創出を目指しています。
実践の場となった「山の都ふれあいコンサート」は、障がいのある人々とともに創り上げる地域文化イベントとして45年の歴史を持ちます。本研究ではこの舞台をフィールドとし、プロジェクションマッピング、360度カメラ、アニメーション・CG、ARコンテンツなどの技術を導入することで、従来の舞台表現を拡張しました。さらに、視覚だけでなく空間的・身体的な体験を伴う多感覚的な演出を取り入れることで、より没入的な文化体験の実現を試みました。
上演作品「なでしこの花が咲くとき」(脚色・演出:望月純吉)では、国指定無形民俗文化財「河口の稚児の舞(かわぐちのちごのまい)」を題材とし、伝統神楽とXR技術を融合した舞台が展開されました。稚児の舞は、富士山の神に奉納される舞であり、噴火を鎮める祈りを込めた地域固有の重要な文化です。本研究では、この祈りや願いといった「目に見えないもの」を、映像と舞台表現によって可視化することに挑戦しました。
舞台上では複数のスクリーンを設置し、幻想的な白馬、火の馬、山界の鹿、白銀の龍などが出現する演出が行われました。富士山麓の樹海や大地、噴火の火といった自然の象徴とともに、最終的には光となった姫が富士山へ舞い降りる場面が描かれ、伝統的な世界観を現代的な映像表現によって再構築しました。
また、本研究の特徴の一つは、障がいのある出演者が単なる参加者ではなく、表現の主体として舞台に関わっている点です。車いす利用者を含めた出演者が舞台上で役割を担い、身体的制約を超えて表現に参加できる構成とすることで、ユニバーサル演劇の実践的モデルを提示しました。

「山の都ふれあいコンサート」の出演者、スタッフ
制作には、メディア学部の学生が分野横断的に参加しました。馬や鹿、龍などのモデリングはアニメーション・CGゼミが担当し、舞台上のスクリーン配置や投影はステージゼミが担いました。また、アクティングゼミの学生が俳優として出演し、日頃の学修成果を舞台で発揮しました。このように、舞台・映像・身体表現を横断する教育的実践としても大きな意義を持っています。
望月准教授は15年以上にわたり障がいのある人たちとの舞台創作に取り組んできました。その中で、言葉を発することが難しかった子どもが話せるようになる、身体の動きに変化が現れるといった成長が確認されており、舞台表現が個人の可能性を引き出す重要な機会となっています。今回の実践でも、出演者・学生・支援者・保護者が関わり合うことで、新たな交流や相互理解が生まれました。
観劇後には、「演技に感動した」「映像と舞台の融合が新しく、富士山の魅力を再認識した」などの声が寄せられ、伝統文化と先端技術を融合した本学の取り組みに高い評価が集まりました。100名を超える関係者が参加し、舞台を通じて福祉や共生社会への理解を深める機会となりました。
本研究は、舞台・演劇学、情報工学、障害学、社会包摂理論を横断する学際的な取り組みであり、「Society 5.0」の実現やSDGs達成にも寄与することが期待されています。今後は、地域文化や文化財とXR技術の融合をさらに発展させ、観光体験の高度化や新たな文化発信の創出、さらには医療・福祉分野における活用など、多様な展開が見込まれます。
望月准教授は「伝統文化に込められた祈りや願いを、誰もが体験し共有できる形で届けることが重要です。今後も芸術とテクノロジーを融合し、多様な人々が関わる表現の場を広げていきたい」と話しています。

共同研究をおこなった先生方 左から望月准教授、甕准教授、大江教授、高桑准教授、中村助教