国際アドミニストレーション研究科
2022.03.06
東日本大震災による影響で薬局・薬剤師不足が続いている被災地の現状を共有し、課題解決に向けた方策を探る「福島薬局ゼロ解消ラウンドテーブル」を2月24日に、東京紀尾井町キャンパス(東京都千代田区)で開催しました。震災からもうすぐ11年。東京電力福島第1原発事故により帰還困難区域に指定された地域も一部で避難指示が解除され、町の再建に向けた歩みが始まっていますが、インフラ整備が追い付いていないのが現状です。今回は、福島県と東京の会場をオンラインで結び、活発に意見を交わしました。
当日会場には学内外の研究者のほか薬局経営者らが集い、帰還困難区域を抱える大熊町、双葉町、富岡町、浪江町で勤務する保健師や町職員の方々がオンラインで参加しました。初めに本学の杉林堅次学長が、「この取り組みが薬剤師の活躍の場を広げるきっかけになってほしいと、期待しています」と挨拶しました。続いて、岡山大学医学部の渡邉暁洋助教が登壇し、医療機関は徐々に整備されても薬剤師・薬局が不足している被災地の現状に触れ、「管理薬剤師を確保するため、兼業や副業を認めるなど一時的な緩和策を検討してもいいのでは」と提案しました。
現地からは薬局不足を訴える声が相次ぎました。浪江町職員の吉田幸子さんは「約1600名の町民のほとんどが今も、町外の避難地で暮らしています。避難解除を受け町に戻った住民もいますが、薬局がないので、隣町まで足を運んでいるのが現状です」と話しました。元復興庁職員で福島市保健所の吉成勇一郎さんは、「住民には震災直後の薬不足の経験から不安が生まれ、薬を多めに保有しがちになるポリファーマシーの問題が起きている」と報告しました。大熊町職員の幾橋功さんは、もともと薬局があった場所が帰還困難区域内のため、町民が町外の薬局に通っていることを述べました。また双葉町職員の安部恭子さんは「双葉町は唯一、避難指示が全町で解除されていません。帰還を希望している住民は多いものの、医療インフラが整備されないと、生活するは難しいのが現実です」と話しました。同じく薬局のない富岡町健康づくり課の遠藤博生さんからは、薬局に行く町民のために今月から町がタクシー運賃補助を開始した例が紹介されました。
会場で参加した後半に登壇した厚生労働省医薬・生活衛生局総務課の太田美紀薬事企画官は「薬局を新たに開設する以外にもICTやモバイルファーマシーの活用等様々な方策が考えられる。それぞれの地域に即したやり方ができるように制度の運用を検討していきたい」と語りました。
オンラインで議論を視聴していた一般参加者からも質問が寄せられるなど、「3・11」を前に、被災地の現状への関心の高さがうかがえました。最後に、今回の催しを企画・運営した本学国際アドミニストレーション研究科長の鈴木崇弘教授は「医者や保健師などの、医療従事者がこれ今まで担ってきた役割を見直し、相互に補完することを考える時期に来たのではないか」と感想を述べ、課題解決に向けた今後の取り組みを継続していくことを確認しました。
渡邉暁洋:岡山大学 学術研究院 医歯薬学域 助教
小林大高:東邦大学 薬学部非常勤講師
岩崎英毅:I&H ホールディングス(阪神調剤薬局グループ)取締役
鈴木崇弘:城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科長
黒澤武邦:城西国際大学大学院国際アドミニストレーション研究科准教授