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柴宜弘・中欧研究所長を偲ぶシンポジウム開催 各研究者が業績と人柄を称える

教員活動

2021.12.04

アンドリュー・ホルバート国際人文学部招聘教授

アンドリュー・ホルバート国際人文学部招聘教授

飯尾唯紀・東海大学准教授

飯尾唯紀・東海大学准教授

石田信一・跡見学園女子大学教授

石田信一・跡見学園女子大学教授

大津留厚・神戸大学名誉教授

大津留厚・神戸大学名誉教授

長與進・早稲田大学名誉教授

長與進・早稲田大学名誉教授

林忠行・京都女子大学教授

林忠行・京都女子大学教授

リュブリャナ大学のアンドレイ・ベケシュ名誉教授

リュブリャナ大学のアンドレイ・ベケシュ名誉教授

三谷博・東京大学名誉教授

三谷博・東京大学名誉教授

旧ユーゴスラヴィア地域やバルカン諸国研究の第一人者として知られた柴 宜弘特任教授(中欧研究所長)を偲ぶ「柴 宜弘先生追悼シンポジウム~思い出と研究を語る」を11月27日、東京紀尾井町キャンパスで開催しました。生前交流のあった研究者の方々が次々に登壇し、思い出を語るとともに、その業績を称えました。

早稲田大学大学院文学研究科博士課程(西洋史学専攻)在学中に、ユーゴスラヴィア政府給費留学生としてベオグラード大学哲学部歴史学科に留学した柴先生は、東欧地域、バルカン近現代史の研究者として意欲的に活動し、なかでも旧ユーゴスラヴィア研究の牽引役として知られました。本学では大学院国際アドミニストレーション研究科特任教授を務めるとともに、中欧研究所所長として、中欧地域と日本との学術交流・共同研究の推進に尽力しました。本年5月28日、国際会議にオンラインで参加していたときに意識を失い、74年の生涯を閉じました。

シンポジウムの会場となった3号棟国際会議場では、亡くなったあとに出版された『ユーゴスラヴィア現代史 新版』(岩波新書)をはじめとする多数の著書が、柴先生の写真を囲むように机に並べられました。

パネル1は井上直子・城西大学准教授の司会で進行し、中欧研究所副所長のアンドリュー・ホルバート国際人文学部招聘教授が冒頭、柴先生が学生と中欧各国を訪れたときの写真を披露。「日本にはない陸続きの国境を学生に見せ、多数の死を伴うヨーロッパの歴史を実感させるために、遠路を徒歩で移動した。柴先生の教育者としての熱心さを物語る一枚だ」と、思い出を語りました。

続いて、飯尾唯紀・東海大学准教授が「中欧研究所と柴先生からの宿題」と題し、研究所設置に奔走し、その運営に力を注いだ姿を紹介。「ヨーロッパのみならず、中国、韓国からも研究者を招きシンポジウムを催すなど、研究交流の場を提供するとともに、その活動を教育にも活用し、学生会議も開催した。自身の研究では、多様性をキーワードに中欧を新しい側面から捉え直した」と追想しました。

石田信一・跡見学園女子大学教授は教科書研究について触れ、「セルビアとユーゴの歴史教科書の記述に大きな相違があることに柴先生はいち早く気づき、広く発信した。さらに、地域史的視点を持った副教材作りの重要性にまで言及した」と功績を称えました。また、大津留厚・神戸大学名誉教授は、30年を経た中欧という概念を再度捉え直す必要があると指摘し、「東欧体制崩壊後の分裂と統合、あるいは再生を自分の問題として考えたのが柴先生だった」と振り返りました。

「さわやかなヒューマニスト」と柴先生の人柄を偲んだ長與進・早稲田大学名誉教授は、「研究においても、ポジティブな方向性、解決への希望を何とか見出そうとしていた」と一貫したその姿勢を思い起こしていました。林忠行・京都女子大学教授も「『また一緒に研究を』というのが最後の会話になった。昨年末に出版された論文集でセルビア義勇軍についての言及を目にし、共同研究に夢を馳せていた」と、無念の思いを語りました。

スロヴェニア最大の大学であるリュブリャナ大学のアンドレイ・ベケシュ名誉教授は、「ユーゴおよびポストユーゴ(旧ユーゴスラヴィア諸国)の映画の動向を毎年違う大学で紹介するプロジェクトを、柴先生とともに手掛けていた。これからも私たちの中で、柴先生は生き続ける」と、その遺志を継ぐことを誓いました。

パネル1の最後に三谷博・東京大学名誉教授がコメンテーターとして登壇し、「南スラブ人の国」を意味するユーゴスラヴィアという国名に深い思い入れを抱いていた柴先生の功績を、改めて称えました。

シンポジウムの模様はオンラインで同時配信され、各地から多くの方に視聴いただきました。またこのあと休憩をはさみパネル2を開催。城西大学のベルタラニチュ・ボシティアン准教授による司会のもと、スロヴェニア、クロアチア、セルビア、イギリスの研究者計6名が、柴先生が実践した歴史教育を紹介したり、ベオグラード大学で交換留学生として学び始めてから名誉博士号を取得するまでの柴先生の思い出を振り返ったりしました。

パネル1・2を通し、柴先生が積み上げてきた研究は死とともに消えていくのではなく、多くの研究者の中に生き続けていくということを示した登壇者に、遺族でもある柴理子・国際人文学部教授から謝辞が述べられ、全プログラムを終えました。

これまでなかなか知る機会がなかった柴先生のさまざまな横顔、研究による歴史和解への貢献に加え、国家間摩擦の絶えない旧ユーゴ後継諸国の学者たちとの関係を平等に保ち、協力継続に尽力してきたことを、国内外のご友人たちの発言からたどることができ、有意義な会となりました。