第16回ど・ゼミ~「まちづくり」「まちおこし」のキーストーンは「人」

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 10月23日(土)、「まちづくり」「まちおこし」に関する企画や運営といった仕事に日々従事している“その道のプロ”をお招きし、月1回のペースで開催する自主ゼミ(大学の授業外で学生たちが自主的に行うゼミ活動)の第16回目を開催しました。今回も、観光学部から学生5名が参加しました。
 第16回目の“その道のプロ”は、東京を拠点に建築家として株式会社アトリエ・天工人を経営するとともに、奄美群島で展開する宿泊施設「伝泊」や奄美産マーケット・高齢者施設・食堂等を含む地域包括ケアの拠点「まーぐん広場」を運営する、奄美イノベーション株式会社代表の山下保博さんです。
 山下さんは、自らが運営するまーぐん広場の名前にもなっている「まーぐん」=「みんな一緒」という言葉が示すような環境づくりを奄美大島で実践しています。こうした「場」づくりは、世界遺産にも認定され観光地として有名になった奄美大島においても、その地域特有の文化の本質を壊さないようにするための活動とのことでした。

 とくに、観光学部の学生にとっては、「私たちの日常生活も観光の一つであり、その根源にある「人」こそが観光の原点である」という印象的な山下さんの言葉を介して、「観光業に従事する者が見つめるべき本質」について、改めて考えるきっかけとなったようです。

 

「まーぐん」と名付けた広場の意味についての説明

 

●観光学部3年 石嶺尚子
 今回は、建築家でありながら、宿泊施設の運営や地域包括ケアに取り組んでいる奄美イノベーション代表の山下さんに、奄美大島で行っている活動を中心にお話を聞かせていただきました。
私は、沖縄出身で、奄美大島は、沖縄と似ている文化や景観がある地域だと感じていました。ただ、今回のお話を聞いて、沖縄県とは違った観光地づくりの取り組みをしていることに興味を持ちました。

 まず、集落の空き家問題を解決するために、空き家を「伝泊」という宿泊施設として活用していることに驚きました。沖縄県では、リゾート地開発が観光の主流だからです。
ちなみに、この「伝泊」とは、空き家を改修工事し、建物本来の特性を活かした宿泊施設です。現在、日本全国でも空き家問題が深刻化しているため、この取り組みは、空き家問題の解決策の一つとなるのではないかと感じました。
 また、そうして「伝泊」として再生した施設では、ウェルネスワーケーションを推進したり、高齢者を対象にしたウェルネスワークショップ「ゆらいの会」を開催しているとのことでした。こうした医療関係者が参画するまちづくりの事例のお話も、とても興味深く感じました。高齢化している社会の中では重要なことだと感じたからです。
 こうした多くの「伝泊」プロジェクトを拝見させてもらう際に、「物」だけでなく運用プログラムも紹介してもらえたこともあり、こうした「場」で「島の人と触れあえること」の楽しさもわかりました。
さらには、奄美ではありませんが、お城に泊まるプロジェクト(長崎県の平戸城)などの話も伺い、観光資源として活用するものは色々なところに眠っているのだなとも思いました。

 そこで、私は、山下さんに「新たに注目している観光資源はありますか?」と尋ねました。すると、山下さんは「人です!!」と答えてくれました。「人と人とのつながりそのものが観光を創っていくのだ」ともおっしゃいました。また、その背景には、「どんなにいい建築を設計しても、人がいなければつまらない」からだとおっしゃっており、私はこの答えにとても驚きました。ただ、人と人とのつながりが減ってきている今だからこそ、人と人とのつながりについて考えることは重要なことであり、社会的にも大きな意義のあることだと感じました。

 このことからもわかるように、山下さんが行っている「まちづくり」では、建築家だからといってホテルや商業施設など観光地を構成する「物」をつくるのではなく、観光資源としての自然や人のつながりを大切にしています。こうした「本来、大切にするべきもの」についての考え方や「本来、大切にするべきもの」を大事にしていく活動を知り、私はとても感動しました。

医療関係者と一体になったまちづくりの事例「ゆらいの会」

 

●観光学部2年 石田茜音
 今回、奄美大島で「伝泊」を運営されている建築家の山下さんの講演会に参加させていただきました。
 ちなみに、この自主ゼミに参加したきっかけは、「私が宿泊業に興味があり、将来はホテルや旅館への就職を考えている」ということを知っていた本自主ゼミを企画している方が、「きっと役に立つので、ぜひ参加してみてください」とお声がけいただいたことにありました。ただ、最初に「山下さんは、建築家だよ!」とお伺いしていたので、「建築を設計している方とホテルで働くことがどのように関係しているのか?」、「建築という「物」と観光という「事」がどのように結びつくのか?」ということについて、あまり想像ができませんでした。しかし、「建築家は、その土地や地理を理解し、そこにもたらす効果も考えながら文化・芸術を活用して社会的なデザインをするのが仕事である」ということを山下さんのお話を通して知り、「地域固有の自然や食などを活用している宿泊業」とも密接な関係にあることを学び、その不安も次第に解消されていきました。

 ちなみに、山下さんのお話を通して、「伝泊」という言葉を初めて耳にしましたが、とても印象に残る単語でした。この「伝泊」は、空き家や古民家を改修して新たな宿にリノベーションし、地域の人々と観光客を出会わせる場を作り上げる取り組みだということでした。まさに、宿泊業を通じたまちづくりだなと思いました。また、同時に、私は将来こういうことがしたいのだと気づかされました。
 こうした気づきの背景には、「「本物のまちをつくる」とはどういうことか?」という問いかけとともに、その答えを噛み砕いて説明してくださったことが理由としてあげられます。とくに、その「本物のまちをつくる」上での一つの考え方として、「非健常者が中心にいることが大切である」とおっしゃっていたことが印象的でした。これこそがSDGsの「誰一人取り残さない」という考え方なのかなと思いました!!地域を活性化させるために観光を活用する上で、今後大切な視点になるだろうと感じました。

 最後に、私は、これまで観光をする上では、視覚的に見えるものとしての観光資源があることが前提だと考えていました。ただ、山下さんのお話を伺って、「私たちの日常生活も観光の一つであり、その根源にある「人」こそ観光の原点である」という考えにとても感銘を受け、少し考え方が変わりました。今後、観光業に関わっていく上で、大切にしていきたいと思います。

 

まーぐん広場でのイベント事例「桜まつり」

 

●環境社会学部4年 杉山清宏
 今回のど・ゼミは、アトリエ・天工人/奄美イノベーション代表の建築家・山下保博氏を講師としてお招きし、奄美でまちづくりを行う上で欠かせない「しま・ひと・たから」というキーワードから、本質的に「まちを元気にするとはどういうことなのか?」ということについてお話しいただきました。

 とくに、山下さんが設計から運営まで関わっている「伝泊」という場を介してお話しくださったので、とても理解しやすい内容で印象に残りました。ただ、その「伝泊」というもの自体を私は知らなかったので、最初はどんなものなのかということを注視しながら伺い、「伝泊」についての説明をまとめましたので、ご紹介します。

 この「伝泊」は、奄美大島の空き家を買って修繕・改修を行い、人が快適に住めるような状態にし、建築を中心に集落や文化を次の世代に伝えるための宿泊施設であるとのことでした。ただ、有名な建築や集落を再生させるというわけではなく、地域が使い続けてきたものを紹介するとのこと。こうした背景には、観光客、とくに、ニッチな観光に興味を持っている外国人客に宿泊してもらい、「地域の人との本質的な出会いの場になるようプログラムも作っていきたい」という思いから始まったとのことでした。

 ただ、その「伝泊」についてお話を聞いていて、一つ疑問に思った点がありました。それは、奄美大島における山下さんが再生させた「伝泊」の分布図を見て思いついたことです。2016年7月~2019年9月までに、島内で30棟44室の古民家を山下さんは改修したそうなのですが、そのすべてが島の周縁にあり、島の中心部では一つも改修していませんでした。私は、「島の周縁部に再生に適した建築が残っていたのかな?」という程度にしか思っていなかったのですが、どうしても気になりその理由を山下さんに伺うと、「奄美大島の中心部にある奄美市名瀬は、島の中では一番の都会にあたり、そのような場所では昔ながらの文化というものが残念ながら廃れてしまった」という回答をいただきました。また、「文化が根付いていないということは、唄や踊り、地域コミュニティーも存在しない。つまり、「伝泊」に生かすことのできる優良な古民家(場)も少ない。」ということだと解説いただきました。

 最後になりますが、こうしたお話を伺い、私も「伝泊」というものは、箱としての素晴らしい建物や素敵な風景を楽しむだけの観光のための宿泊施設ではなく、前提として観光客のような地域外の人と「地域コミュニティーについて学ぶ」ための施設だということがわかりました。また、同じ一つの島の中でも、「伝泊」を介して様々な文化の存在を知ることができるのだとわかり、島全体を楽しむ価値を改めて理解しました。
現在は、新型コロナ禍で観光客、とくに、外国人観光客に「伝泊」の良さを実体験してもらうことは厳しいかと思いますが、話を聞くだけでも楽しい文化だということが伝わってきたので、こうした価値を色々な人と共有すべく、自分も是非足を運んでみたいという気持ちになりました。

 

奄美大島における「伝泊」の実施例の分布