観光に関わる「移動」の未来像について考える~北海道上士幌町での実証実験

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観光学部の金子ゼミでは、2022年度の夏休み期間を利用し、北海道上士幌町のご協力のもと、当地で電動車椅子の観光利用に係る実証実験を実施してきました。
この上士幌町は、現在、SDGs未来都市として認定されている地域です。内閣府地方創生推進室が目指しているデジタル田園都市国家の構想の一環としてMaaSに関わるプロジェクトも複数年度にわたり取り組まれています。
こうした地方都市のインフラや環境を住み続けられる町にアップデートする取り組みは、金子ゼミの活動とも親和性が高いことから、昨年度末にお声がけいただき本年度の取り組みの一環として実証実験に関わらせていただくこととなりました。
今回は、以上のようなきっかけで始まった活動の記録の一端を学生の声としてご紹介したいと思います。

上士幌町・竹中貢町長に対しゼミでの取り組みについてプレゼンを行いました


○ 観光学部4年 髙橋 昂哉
私たち観光学部・金子ゼミでは、去る8月8日から12日の5日間の期間、ゼミの研究テーマである「健常者における電動車椅子の観光利用」に関わる実証実験を行うため北海道上士幌町に行ってきました。

今回の実証実験では、電動車椅子に乗車し、下記のことを調査してきました。
(1) 大学のある千葉県東金市から目的地である北海道上士幌町まで行くまでの行程における走行時の課題となる項目の洗い出し
(2) 上士幌町内の観光に関わる施設内における利用上の課題となる項目の洗い出し
(3) 上士幌町内及び上士幌町近郊の観光地の屋外走行時の課題となる項目の洗い出し

また、電動車椅子を利用した際の観光モデルを作ることを目的とした調査を実施しました。そのため、一般的に電動車椅子が走行できるであろうと仮定されているような施設や外部空間だけでなく、健常者が観光する場として好むような観光施設なども調査のため周遊しました。
そのこともあり、上士幌町の観光施設となっているナイタイテラスやしんむら牧場といった一部路面が舗装されていないような環境のある場所も走行したり、斜面地に立地している糠平源泉郷も走行し、乗車上の課題について調査しました。

私は、実証実験中を通して、主として電動車椅子に乗車していたため、多くの問題に気づくことができました。大学でも試乗していた経験上、日常の環境にあるような整備された舗道環境は問題ないと思っていたのですが、マンホール整備上にできたちょっとした段差や歩道から車道に切り替わる縁石の段差など多くの点で課題があることがわかりました。これは、上士幌町に限ったことではありませんが、我々にとっては大きな発見でした。もちろん、上士幌町特有の問題も多くあったので、今回の調査から見つかった課題を報告書などにまとめ改めて皆様へも報告したいと思います。
また、私たちは健常者に向けて電動車椅子の普及を促進していきたいと考えているので、電動車椅子に乗ったことがない人が利用するためのガイドブックや電動車椅子を利用する際に適したコース作りが必要だと感じました。他にも検証すべきことや制作すべきことなど多くあることに気づいたので、引き続き調査内容を精査し、課題解決の方策を検討してみたいと思っています。

今回の実証実験の行程(羽田空港ターミナル内)で実際に運用されている「WHILL自動運転モビリティサービス」を利用した際の様子


○ 観光学部3年 坂入 桜花
私は、今回の北海道上士幌町での実証実験で、電動車椅子に馴染みのない若年世代への普及啓発をするための方策を考えることがミッションとして課せられていました。そのため、上士幌町役場の方々のご協力のもと、中高生向けのワークショップ(試乗会+電動車椅子を利用する上で知っておくべきキーワードの紹介)を計画していました。ただ、新型コロナウイルスの影響か、私たちの告知の仕方がまずかったのか、実際に人が集められなかったので、ワークショップの開催は中止となりました。とはいえ、来年度こそはワークショップを実施したいと考え、上士幌町の職員の皆様にご協力いただき、ワークショップと同じ内容を通しで予行演習をしてきました。

ちなみに、このワークショップの内容に関しては、ゴールデンウィーク明けから準備してきたのですが、私にとっては悩みの多いものでした。とくに、中高生に、「電動車椅子を利用する上で知っておくべきキーワードを理解してもらうにはどうすればいいのか?」「数多あるキーワードの中で、何をどこから伝えればいいのか?」という点で悩む日々が続きました。中止が決まってはいましたが、前日の夜遅くまで、先生をはじめ先輩や同級生とともに、本当に伝わるのだろうかとパワーポイントを繰り返し読み返していました。

こうして迎えた当日の上士幌町職員の皆様へのワークショップでの発表はなんとか乗り切りましたが、「中高生には本当に伝わるのだろうか?」とまだ悶々としていたところ、試乗会の会場(上士幌町生涯学習センター・わっか)の近傍にたまたま居合わせた小学生が電動車椅子の試乗会のワークショップの様子を興味津々にみていました。一人の男の子は、電動車椅子の追従機能に興味を持ったようで、急遽、電動車椅子を先導してもらう体験をしてもらいました。周りにいたその子のお友達も、その行為が気になったようで電動車椅子の周りは人だかりになっていました。
その様子を見ていて、言葉で伝えることは難しいかもしれないけれども、もっと楽しさを伝えられるといいのかなと思った次第です。そして、コロナが明けたら、今回の経験を参考に、さらなる練習を重ね、素敵なワークショップを開催できるよう頑張りたいと思いました。

日信電子サービス株式会社が提供するdoog社製のgarooを利用しての中高生向けワークショップの予行演習の様子


○ 観光学部3年 坂田 凜太郎
今回の北海道上士幌町における実証実験は、私たち3年生にとっては、はじめての公共空間での試走となりました。そのため、電動車椅子の活用方法を知るだけでなく、車体自体の課題についても考えるきっかけとなりました。
まず、公道を走るということがこんなにも難しいものなのかということを実感しました。日常的に利用しており、慣れている道であれば問題はないのですが、はじめて走行する道だったので課題が多いと感じたからです。もちろん、今回、実証実験に利用した電動車椅子の性能は、障がいを持った方々の利用を想定して設計されているので、日常的に利用するような舗装された公道では安定した走りをみせていました。しかし、私たちが観光で利用している施設や牧場などに行ってみるとわかるのですが、施設側も車椅子側も改善が必要な点がこんなにもあるのかと感じたからです。

今回の訪問場所の一つであるひがし大雪自然館を一例として取り上げ、電動車椅子利用上の課題などを紹介しておきます。
このひがし大雪自然館は、大雪山国立公園内にある施設で、この国立公園に生息する動物や昆虫の展示を行っています。今回はこの施設内とその周辺も利用検証を行いました。
まず、施設内における展示品の鑑賞は問題ありませんでした。もちろん、展示によっては狭く作ってあるスペースもあるのですが、電動車椅子自体の利用に慣れていれば誰でも通れるスペースの広さになっていました。ただ、他の閲覧者とすれ違う場面では、お互いの気遣いが必要になってきます。また、展示物の中には、顕微鏡で昆虫を覗き観察するものがあるのですが、これは、今回の実証実験で利用した電動車椅子では見ることができませんでした。机の天板になっている板の厚みに電動車椅子の操作部が引っかかってしまったからです。普通の車椅子では見ることができるような設計になっているのですが、現状販売されている電動車椅子特有の課題かもしれません。
次に周辺環境ですが、近隣には、糠平湖という大きな湖があります。ひがし大雪自然館からこの湖までの道のりは坂道が続いており歩行には少しきつい環境なので、電動車椅子に乗車していて良かったと思いました。一緒に並走した撮影部隊は大変そうでした。また、全ての道路を綺麗に常時舗装できるわけではないので、凸凹な路面になっている悪路も多く、後輪が浮いてしまうトラブルも度々ありました。ただ、湖周辺の草むらや遊歩道は問題なく走行でき、湖畔の素敵な環境を垣間見ることができました。なので、どういう風に、こうした走行上トラブルになる舗装を回避していくのか検討しなくてはならないなと思いました。

以上のように、色々課題はありますが、足への負担が減るとか、車や歩行では感じられない新たな発見があるといったいい面も多くあるなと思っています。今後は、こうしたメリットを多くの電動車椅子の利用者に共有しつつ、先に挙げた電動車椅子の観光利用をする上での課題の改善案や回避する方法を検討していきたいと考えています。

ひがし大雪自然館館内での実証実験の様子
 
上士幌町内の観光地・ナイタイテラスのある高原での WHILL Model F を利用した実証実験の様子