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まる行:日本遺産プロジェクト(群馬県館林市の取り組み事例紹介)

自主ゼミ

2021.08.23

 行政が施行する地域政策や政策に伴う整備がどのように運用されているのかということを、行政職員の方々にご紹介いただく自主ゼミ「まる行(行政の行なっている地域政策まるわかり研究会)(以下、まる行)」を7月29日に実施しました。

 この自主ゼミは、各地域で主として取り組んでいる課題に即したテーマを取り上げ、担当者よりお話を伺います。今回は、「日本遺産」をテーマとし、群馬県館林市教育委員会文化振興課 日本遺産推進係の職員の方々に、お話しいただきました。


 「日本遺産」とは、文化庁が「地域の歴史的魅力や特色を通じて我が国の文化・伝統を語るストーリー」を評価・認定し、「魅力溢れる有形や無形の様々な文化財群を、地域が主体となって総合的に整備・活用」していくための取り組みです。
 (※文化庁HP「「日本遺産(Japan Heritage)」について」https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/nihon_isan/index.html) を参考に観光学部の学生も、「日本遺産」を観光資源として活用していくにあたり、その活動の課題と展望について考える機会とすべく、4名の学生がオンラインで、その他8名の学生がオンデマンドで聴講させていただきました。
 

日本遺産のロゴ
 


●観光学部2年 望月志峰


 今回の「まる行」では、群馬県館林市の吉村昭和係長に、館林市により認定された「日本遺産」のための環境整備と、「日本遺産」化された後の観光利用の手法についてお話いただきました。


 群馬県館林市は、2019年に<里沼(SATO-NUMA)-「祈り」「実り」「守り」の沼が磨き上げた館林の沼辺文化->と題した地域資源(つつじが岡公園や「ぶんぶくちゃがま」で有名な茂林寺などを含む)のストーリーが、「日本遺産」として認定されました。

 ちなみに、今回の主題である「日本遺産」と同様に、地域の歴史的魅力や特色、文化・伝統を価値付けする「世界遺産」は、登録された文化財の保護や保全を担保することを目的としています。これに対して、「日本遺産」は、遺産となるようなものを文化財や自然遺産としての価値付けを行うのではなく、その場所に伝わるストーリーに注目しています。そのため、地域に点在する生活に根付き見えなくなっている身近な資源を「面」として価値付けしています。また、こうしたストーリーを現代の産業に活用することを目的としているため、現在の生活者が利用しやすいように磨き上げられなければならないとのことでした。とくに、館林市の吉村係長は、この「日本遺産」化によって、「地域が観光地化され、経済効果が生まれることで、地元の人たちにCivic Prideが醸成されれば...」とおっしゃっていました。

 私は、こうした吉村係長のお話を聞いて、「身近にありすぎてその魅力に気づいていなかったものも、他の地域の人にとっては魅力に感じることもあるのだ」と改めて感じました。よく、自分が生まれ育った場所や住んでいる場所のことを尋ねられると、「何にもないよ」と謙遜する人が多いと思います。しかし、当たり前のことですが、毎年恒例になっている年中行事やしきたり、地形、気候など、まったく違う場所で生活してきた人にとっては、とても新鮮なものなのです。ただ、身近すぎて気づいていない魅力なのかもしれません。


 そう考えてみると、地域活性化をするためには、地域の魅力について、ある地域に長年住む地元の方の意見と他の地域から移り住んできた人の意見を交換することは非常に重要なことだと思いました。私は、地元を離れて鴨川で暮らすようになってから、地元の良さがわかり、「観光客に知られていない良いところもたくさんあるのだ」と思ったこともありますが、今回の話は、そのような気づきを私に与えてくれました。


 私は、今回学んだことを糧に、地元の魅力を再発見し、発信できるような逸材になれるよう学びを深めていきたいと思います。

 

地域の魅力を再発見し発信できる人材の育成プログラム
 

●観光学部3年 清水香那

 今回の「まる行」という自主ゼミでは、群馬県館林市の職員の方々が取り組んでいる「里沼」を中心に据えた地域全体の「日本遺産」化に向けた事業整備と、「日本遺産」化された後の地域資源の観光活用に関する刺激的なお話をお聞きすることができました。とくに、地域の行政職員が、地域外の広報やコンサルタントなどの力を借りずに、独自の力で地域内の人材ネットワークを構築し、「日本遺産」化とその継続的な活用という課題に取り組んでいる姿が印象的でした。


 ちなみに、今回の題材である「日本遺産」という言葉については、お話を聞く前からメディアを通して知っていたのですが、具体的にどのような基準で認定され運用されている取り組みであるかは知りませんでした。とくに、「日本遺産」とは、「日本の地域文化を象徴しているものを認定する制度」だということまでは知っていたのですが、これまで文化財とされてきた建築やまちといった単体ないし群的なものとしての資源を評価するという価値づけ作業とは異なり、それが地域の歴史にどのように組み込まれてきたものなのかというストーリーがうまく伝えられないと文化庁により認定されないということは知りませんでした。そのため、「日本遺産」化に向け、行政の方々は、地域に眠る新たな資源を掘り起こし、これまでの文化財とともに地域のストーリーとして価値づけすることに取り組んできたそうです。


 私は、昨年度、「観光メディア」という授業で、千葉県鴨川市におけるフリーペーパーを制作し、鴨川市の名物「おらが丼」についての記事を書きました。その際に、お店への取材を通して、「おらが丼」の誕生秘話や地域の方が「おらが丼」を通して地域のために様々なことを考えていらっしゃることがわかりました。こうしたストーリーとともに「おらが丼」を食すことが、観光の本当の価値なのではないのかと考えたものです。とても身近な例ですが、こうした自らの経験と館林市職員の方のお話を重ね合わせてみると、今までの自分の取り組みもこれからの観光地にとっての地域資源を考える上では重要な作業だったように思えます。


 もう一つ、「日本遺産」化に向けた整備のプロセスについて学ぶことを通して、大きなことを学びました。それは、地域のストーリーを作ることで、地域に根付いてきた方々にとって、地域のための取り組みがしやすくなり、そのことでより良い地域が生まれていくということです。


 最後になりますが、今回の自主ゼミを契機に、ストーリーを大事にしながら地域資源について多くの人に伝えることを心がけていきたいと思います。


 

「里沼SATO-NUMA」が日本遺産に認定されてから1年の活動

●観光学部3年 髙橋昴哉
 群馬県館林市役所にて日本遺産プロジェクトに携わっている吉村係長から、館林市の「日本遺産」に登録された、<里沼(SATO-NUMA)-「祈り」「実り」「守り」の沼が磨き上げた館林の沼辺文化->と題した地域資源のストーリーについてのお話を伺いました。


 私は、今回の自主ゼミまでは、「日本遺産」についての知識がなかったのですが、館林市の職員の方々の「日本遺産」化に向けた取り組みの話を伺うことで、「日本遺産」化することの意義や「日本遺産」化された後の課題について学ぶことができました。

 今回の学びの中で、最も印象的だったことは、地域に眠る資源に対して「保存」を重視することと「活用」を重視することの違いについてです。

 
地域資源を「保存」することは、昔からある建物や自然景観を保護していく上で必要なことだと思いますが、それだけではいけないということです。その建物や自然景観だけが保護されていても、地域自体が存続していかなければ、「保存」された建物や自然景観は守れないということです。このように「保存」されたものを、観光として「活用」し、地域の経済的な持続に役立てなければならないということでした。そのために、地域のブランド化や地域アイデンティティの再確認をしなければならないことを学びました。こうしたプロセスを通して、経済的な成功体験を地域住民が獲得することで、シビックプライドの醸成と地域活性化が達成されるとのことでした。

 私も、大学の地域連携授業に取り組む際に、「自分たちの住んでいる地域に「どんな歴史があるのか?」「どんな魅力があるのか?」などといったことを地域住民自身が理解することで、まち全体が一体的に観光に取り組む姿勢が作られるのではないか?」と考え、そのようなことを共有できる情報提供のためのプラットフォームを作り、地域資源を住民の観光に取り組むための意識向上に「活用」したいと思っていたので、参考になる内容のお話でした。

 また、沼を「里沼(SATO-NUMA)」と呼称し、「日本遺産」として観光利用するということも非常に勉強になりました。そもそも、私は、沼というのがどういうものなのか理解していませんでした。


 ちなみに、沼は、水深5メートル以下とされているそうで、池よりも水深が浅いことから、植物が水面近くまで生えていることで多くの動物にとっては宝庫ともなるような自然資源でもあるそうです。ほとんどの人も、私同様に、こうした沼と池の違いを知らないかもしれません。ただ、このように、地域資源についての知識を得ることで、それまでは汚いだけと思われて倦厭されていた沼に対して違った評価ができるようになり、観光資源としての「活用」に繋がっていったとのことでした。こうした価値の共有を持続していくことが、まちづくりにおいては重要な活動なのだと感じました。


 今回は、残念ながらオンデマンドでの参加でしたが、とても勉強になりました。今後も、行政の方々がどのように観光振興に対し向き合っているのかということについて学んでいきたいと思います。

 

 
 
 

「里沼(SATO-NUMA)」の文化の継承と新たな価値の定義