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まる行:東川町「東川スタイル」を中心とした「横串」のまちづくり (北海道上川郡東川町の取り組み事例紹介)

自主ゼミ

2022.02.10


 行政が施行する地域政策や政策に伴う整備がどのように運用されているのかということを、行政職員の方々にご紹介いただく自主ゼミ「まる行(行政の行なっている地域政策まるわかり研究会)(以下、まる行)」を11月30日に実施しました。
 この自主ゼミは、各地域で主として取り組んでいる課題に即したテーマを取り上げ、担当者よりお話を伺います。今回は、「横串」をテーマとし、北海道上川郡東川町産業振興課の職員の方にお話しいただきました。

 日本の市区町村の行政の仕事は、どうしても部署ごとに縦割りに運営されがちなのですが、各部署が手を取り合ってまちづくりを行う「横串」的な先進的事例も数多くあります。その代表的な事例としてメディアを賑わせているものこそ、今回ご登壇いただくことになりました東川町の「東川スタイル」の取り組み(https://town.higashikawa.hokkaido.jp/)です。

参考文献:『東川スタイル 人口8000人のまちが共創する未来の価値基準』
『東川町ものがたり: 町の「人」があなたを魅了する』    など

 その活動の事業内容と事業内容に伴う課題や展望について伺う機会とすべく、7名の学生がオンラインで、その他5名の学生がオンデマンドで聴講させていただきました。
 

適疎を基本とした「東川スタイル」とは?


●観光学部3年 佐藤淳也
 今回の「まる行」は、北海道上川郡にある東川町で産業振興課課長として産業支援制度の運用を基軸とした「まちづくり」に携わっている菊地伸様に、『適疎なまちづくりとその可能性』と題したご講演をしていただきました。

 ちなみに、ここで言う「適疎」とは、「過密でも過疎でもない、ほどよい間のある状態」のことを指します。その「適疎」な地域では、行政職員が「どのようなかたちで「まちづくり」に関わればいいのか?」ということが今回のご講演の主題となりました。
 政策事例として挙げていただいた「東川町が「写真の町・東川町」として地域振興を行っている事例」や「建築家・隈研吾さんと連携したデザインミュージアム構想」、「景観条例によって街並みを美しく保つ取り組み」などについても、人口の少ない地方社会「だからこそできる」まちづくりの取り組みとしてご紹介いただきました。

 これらの中で、私が「この政策は素晴らしい!」と思ったことの一つに、「東川オフィシャルパートナー制度」というものがありました。この制度は、東川町と繋がりのある企業とパートナーシップ関係を構築するために、企業に東川町という地域運営の株主になって投資をしてもらう代わりに、その企業の社員の福利厚生の事業支援や、災害時の物資支援提供を行政が行うというものです。また、こうした関係性の構築を契機とし、企業と連携したSDGsの推進など東川町を基点とする日本の「未来を育む社会価値の共創」を行おうとしています。現在23社がパートナーとして連携しているそうです。とくに、この「東川オフィシャルパートナー制度」という政策は、企業との連携を強化していくだけではなく、その企業に属している個人でも株主になることができるそうです。
 他にも、上記のような企業向けのパートナーシップ制度だけではなく、一般的に行われている個人向けのふるさと納税や企業と同じような個人向けに「ふるさと株主」として東川町に寄付できる仕組みもあるそうです。講演後にweb siteから調べたことですが、冒頭にも述べた「写真文化首都「写真の町」推進事業」や「東川発デザインミュージアム建設事業」にも株主として投資できるようになっているようです。さらには、東川町の自然とくに「水と環境を守る森づくり事業」にも支援できるとのことでした。
 こうした「自分たちでまちを創っている」という意識の植え付けが、東川町のファンとして定着していく関係人口の創出に繋がっているのかなと思いました。

 以上となりますが、東川町を支援したい人や企業の投資に見合う活動をすることで、観光地としての機能を維持している取り組みに、私は驚きを隠せませんでした。私も、観光学部に入り、観光地を経営していく上で、観光地に関わる企業との連携は最も大事にすることだと学びましたが、地方の小さな町では、行政の人材を基軸として「まちづくり」に取り組むことは困難だと考えていたからです。そんな折に、この自主ゼミで、東川町のお話を伺えたことは貴重な機会となりました。今後は、今回のご講演を参考とし、私個人も観光地との関わり方について考えていこうと思います。

写真の町・東川町を代表するイベント

 

東川町パートナーシップ制度の概要


●観光学部2年 坂入桜花
 私は、今回、行政のお仕事丸わかりをキャッチフレーズとしたこの自主ゼミ「まる行」に初めて参加しました。
 今回の出席は、来年度から所属する観光学部・金子ゼミで行なっている『観光のおしごと』というゼミ活動の参考にするためでした。ちなみに、『観光のおしごと』とは、「就職に必須とされる『四季報』などの情報誌や『マイナビ』『リクナビ』などの就職サイトには載っていないような観光周辺の仕事や観光の仕事の中でも詳細がわかりづらい職種について調査する活動」です。

 そのため、今回は観光に関わる行政職のお仕事を調査すべく、「まる行」に参加し、北海道東川町の前・東川スタイル課長で現・産業振興課課長の菊地さんのお話を伺いました。
 今回の自主ゼミへの参加理由は『観光のおしごと』についてまとめることでしたが、むしろ「観光」という視点ではなく、また菊地さんの現職の課である「産業振興」のお話でもなく、「東川スタイル課」という普段聞きなれない部署の仕事にとても興味をそそられました。
 伺った話をもとに、簡単に「東川スタイル課」について説明すると、一般的に行政のお仕事に特有な「縦割り」で部署ごとに仕事をするのではなく、部署が連携して仕事ができるように調整をすることが主な役割だそうです。
その中でも、とくに私が興味を持ったお話は、以下の二つでした。

 一つは、「北海道で唯一の上水道のない町」というお話についてです。一般的には、上水道の整備などは都市計画課が行いますが、そこを観光の一つとしてブランディングしていくというものでした。
 例えば、「東川町は、大雪山が蓄えた雪解け水が、長い年月をかけてゆっくりと地下に浸透してきている町」とのことです。したがって、「北海道で唯一の上水道のない町」という全国的にも珍しい地域になっているそうです。近代化した町からすると、上下水道がないと聞くと「大丈夫?」と思いがちですが、私はこのお話を伺って「自然の豊かさを知る上では、この上ない価値だ」と思いました。こうした価値に気付いた私のような人間を、「うまく観光に引き込んでいるな」とも思いました。私も「コロナが落ち着いたら、実際に訪れて、この水を飲みたい!」と思ったからです。
 ちなみに、ご講演いただいた後、この水のことがどうしても気になって、「美味しい水ランキング」をネットで調べたところ、日本の中でも上位にランクインしていたことに驚きました。このような水が手に入るからこそ、東川町は、天然水を使ったコーヒーが飲めるお店が、町内の景観にマッチしたオシャレなショップとしてたくさんオープンしたとのことでした。美味しいものが大好きなので、さらにワクワクしてしまいました。

 もう一つは、東川町は「国内三大家具「旭川家具」の3割を生産している家具の町」だというお話についてです。こちらは、産業振興課が一般的には扱う事業のようですが、そこを文化事業や教育事業の一つとしてブランディングしていくというものでした。
 ちなみに、こうした企画を実施した背景には、東川町に技術力とデザイン性に優れた家具職人が居住していることが挙げられます。
 ただ、そうした事実が私の興味をそそったのではなく、「椅子の日」を制定したり、建築家の隈研吾氏とコラボし、東川町の公共施設へ地域で生産された家具を積極的に導入するなど、地域ぐるみで旭川家具をバックアップする取り組みを行っていることに興味をそそられました。その結果、町全体がショールームになっている、というところも素晴らしいなと思いました。
 また、公立の中学校に入学した際には、市から一つ一つ手作りされた名前入りの椅子がプレゼントされるとのことでした。それを、生徒たちは3年間使い、卒業とともに自宅へ持ち帰るというシステムも整えたとのことです。こうした地域固有のプライドを醸成する仕掛けは、素敵な営みだなと思いました。

 以上となりますが、「観光」という視点とは異なるお話に興味がそそられたと述べましたが、実は、こうした小さな物語が「観光」につながるのではないのかとも思った次第です。そして、こうしたことを喧伝する観光セールスマンがこの東川町「スタイル課」という職種なのかもしれないなと感じました。
 

シビックプライドを醸成するためのプロジェクト


●観光学部2年 望月志峰
 今回お話いただいた北海道上川郡東川町は、北海道のほぼ真ん中に位置しており、交通のアクセスがとても良い場所にあります。大雪山国立公園の一部であることから、森林資源と自然景観が観光資源になっている場所だそうです。そのこともあり、大雪山から流れる雪解け水が地下水となったものを、町民は生活に利用しています。また、2019年に行われた「ゆめぴりかコンテスト」で金賞を受賞するなど「東川米」というブランドが確立しているほど、北海道屈指の米どころとなっています。このような地域資源豊富な地域であれば、観光地を運営していく上で何も苦労することはないだろうなと、実際に話を伺うまでは思っていました。

 ただ、観光地を支える人材の問題、とくに、少子高齢化問題は東川町でも避けられないのかなと思いました。そのこともあり、私は、東川町の未来の町のための政策として取り組んでいる子どもたちへの政策に興味を持ちました。その中でも、私が一番印象に残っている政策は、「君の椅子プロジェクト」です。「君の椅子プロジェクト」は、「生まれてきてくれてありがとう、君の居場所はここにあるからね。」をキャッチコピーとした「町民に椅子をプレゼントするプロジェクト」です。もともとは、東川町で手作りした椅子を通じて、「子どもの成長を温かく見守りたい」「家にも町にも居場所があることを伝えたい」という想いから生まれた取り組みだったとのことでした。
 ちなみに、「なぜ椅子か?」というと、東川町は木工業が盛んで、日本三大家具生産地の一つである「旭川家具」の生産量全体の30%を生産していることが理由として挙げられます。また、この地場産業で生み出されたものを、子どもの頃から利用してもらうことで、子どもは物を大切にする習慣ができると考えてのことだそうです。幼い時の記憶は、成長しても案外覚えているもので、「古くても長持ちする」ということが肌身をもって理解できるだろうとのことでした。私たちがこの自主ゼミで学んだ、「まちづくりでいうところの「続けることに価値がある」」という言葉にも似ていると思います。さらに言えば、こうした習慣から、「必要なものを必要なだけ購入したり、資源を有効活用することができるようになる」と、私は思いました。SDGsの「12. つくる責任つかう責任」の達成にも個々人が寄与できるとも考えます。

 最後になりますが、コロナ禍の影響で外に出る機会が減ってしまったことで、孤独に感じ、自分の居場所を見失っている人も少なくないと思います。ただ、この椅子があることで、「自分の居場所はここにあるんだ」と思えるのではないでしょうか。こうした未来を担う子どものために設けられた政策に取り組む東川町は、とても素晴らしい町だと感じました。
 

君の椅子プロジェクト