城西国際大学の教育研究活動に関する情報を発信するNewsletter。毎号、全7学部共通のキーワードを軸に研究者たちの多様な取り組みを紹介します。
今号のテーマ「CHIBA(千葉)」
学校法人城西大学の創立者・水田三喜男は1905年、千葉県安房郡曽呂村(現・鴨川市)で生まれ、2025年は生誕120年にあたります。水田が生まれ育った千葉は今、都市機能と豊かな自然を備え、アミューズメント施設や空港を抱える世界的にも注目される都市です。今号ではそんな千葉の現在地を本学の研究者が多角的に考察します。
生活習慣病の一因となる脂肪蓄積を防 ぐ薬剤などの研究を主に行っています。 その関連成分がオリーブにも含まれることが分かり、研究を進めていました。そんな中、東金市が2013年にオリーブ農家とともにオリーブの産地化や地域ブラ ンド化に向けた取り組みを開始しました。この取り組みに10年ほど前からさまざまな側面から関わっています。
まず、オリーブの木に食害をもたらしていた「オリーブアナアキゾウムシ」か ら木を守る薬剤の開発です。この虫は日本にしか生息していないことから、研究が進んでいません。対策は有機リン系の殺虫作用のある農薬を幹などに塗布する方法が主流でした。そこで、人や植物に影響のない天然由来の成分で忌避剤を作 れないかと研究を進め、行動観察装置を作製して天然由来の成分9種類の効果を確認。2023年には特許を取得しました。
このほかに、学生とともに進める商品化と啓発活動もあります。商品化は域学共創プロジェクト「オリーブ産地化応援プロジェクト」で進行中です。オリーブの葉の粉末を練りこんだ「米粉フィナンシェ」や「オリーブ茶」、「オリーブショコラ」などを製作中で、2025年度中の製品化、商品化を目指しています。未利用資源となっているオリーブ葉を活用することで、生産者の新たな収入源とすることを狙っています。
啓発活動では年に2回、小中学校の食育事業に「オリーブ新聞」を4,000部ず つ発行。マラソン大会にはオリーブクラウンを提供し、東金市民がオリーブに親 しむ機会を増やそうと取り組んでいます。
将来的には、特許を活かした農薬やオリーブ葉加工食品の開発により、オリーブ樹や生産者を守り、オリーブの生産量を増やすことで、地域ブランディングをすすめ、オリーブの産地化を軌道に乗せていきたいと考えています。
▲光本教授とオリーブの木
<専門分野・研究テーマ>
毒性学、衛生化学
<キーワード>
オリーブ産地化支援によるヘルスケアのまちづくり・代謝性疾患、予防医療、オリーブ
主な研究対象は中国・華南地方、特に香港やマカオの政治や経済、文化です。最近ではマカオのカジノの規制状況やギャンブル依存症対策に関する講演などの機会があります。大阪万博が閉幕し、日本でも議論がさらに活性化するのではないかと考えています。
一方で、留学生が日本の歴史・文化への学びを深めるために、千葉の歴史・文化をまとめました。古くから、海運により和歌山南部と交流し、上方の文化や伝統、学問を取り入れていまし た。特に東金市では江戸時代に鷹狩場があり、上級文化に接する場所でした。このような千葉の歴史・文化を体感するために、域学共創プロジェクト「東金市の祭りと伝統芸能」を実施。学 生とともに東金市内の祭りに参加し、伝統文化の継承や地域のつながりをつくる課題や解決策を模索しています。地域の歴史・文化を学び体験することはコミュニティに共存している意識を醸成することにつながると考えています。
▲学生が参加した東金市の祭り
<専門分野・研究テーマ>
華南地域研究・中国現代史・移民研究
<キーワード>
香港、近代中国政治史、華南、広東省、マカオ
外国にルーツを持つ子どもたちへの日本語学習支援が、千葉県山武市で進められています。市内ではスリランカ出身の児童生徒が近年増加し、日本語だけでなく、文化や生活習慣への理解も求められています。現在、日本語教員として留学生に日本語を教えるほか、海外での日本語研修の指導を担当する一方で、学校現場や地域の支援員と連携し、教材づくりや研修を通じて学びの場を支えています。「短く、はっきり、最後まで」を基本とする“やさしい日本語”の実践に加え、教材作成にも力を入 れています。特に、場面を把握しやすいように工夫したり、子どもたちのアイデンティティを支える教材づくりを心がけたりしています。日本語を教えるだけでなく、日本語を通して周囲の人とつながるための自己表現を身につけてもらえるよう、講座ではその想いを込めて伝えています。言語は文化。文化の背景を知ろうとし、互いに尊重し合うことが大切です。子どもたちが自分のルーツを誇りに感じながら学べるように、地域と大学が力を合わせ、多文化共生の新たなモデルづくりが進められています。

▲佐藤助教の講義の様子
<専門分野・研究テーマ>
日本語教育
<キーワード>
教育文法、教材開発
成田国際空港には多数の観光客が訪れます。しかし通過点にすぎないため、立地する地域と関わることはなく、観光地としても無名です。そこで本学は空港立地自治体の芝山町と包括連携協定を結び、地域特性を活かした観光まちづくりに取り組んでいます。
今までにウォーキングコースづくりや町立博物館の改善計画などを行ってきました。今年度は新たに地域グルメの開発を試みています。10月には試食会を行い、11月の同町の「はにわ祭り」で提供しました。
芝山町には埋もれている魅力がたくさんあります。それらを発見して磨き上げ、観光開発をしてゆくことは、経済的メリットのみならず、関係人口の増加や公共交通網の充実など、地元住民にも恩恵をもたらします。観光を通じてより住みやすい、魅力的な町への変貌を支援してゆきたいと考えています。
▲学生が考案した地域グルメメニュー
<専門分野・研究テーマ>
環境緑地学、造園学、環境心理学、環境教育学、園芸療法論
<キーワード>
自然環境の保護と利用・創出、自然・農業・食を活用した地域活性化、農園芸を通じた高齢者や障害者の就農支援・生きがいづくりに関わる研究
地方財政が専門です。特に大網白里市では第5次、第6次の総合計画の策定審議会に参画し、審議委員長として地元の委員の方々と市の将来像について話し合いました。
大網白里市は、1954年に3町村が合併した大網白里町が2013年に市政施行を行い誕生しました。西に緑豊かな丘陵部、中央に広大な田園地帯、東は白砂青松の海岸部という特色ある風土です。JR外房線とJR東金線が乗り入れており、外房地域の玄関口でもあります。総合計画や総合戦略を審議するにあたっては、いかに魅力ある市にするか、どうしたら住みよい市になるかを真剣に話し合いました。地方は実に多くの問題を抱えています。高齢化、人口減少、学童の減少、財政の硬直化、地域 コミュニティの衰退等。そのような厳しい状況のなかで、みんながんばっていこうとしています。これらの課題に「特効薬」等はありません。一つひとつの問題に真摯に向き合い、丁寧に解決に取り組んでいくことこそが、みんなが住みたいと思う魅力ある地域づくりにつながると思っています。
▲渡邉教授の講義の様子
<専門分野・研究テーマ>
地方財政 地域開発
<キーワード>
地方自治の研究地方財政論地域開発論
専門は映像や音声、テレビそのものを扱う芸術「ビデオアート」です。本学メディア学部では2年生以上を対象に「スタジオ番組」という講義、演習を行っており、私はこれを担当しています。テーマは八鶴湖周辺の歴史的景観です。八鶴湖は東金駅から西に500mほどの場所にある湖で、徳川家康らが鷹狩の際に利用した「東金御殿」築造の際に池を広げた御殿池です。歴史の深い湖の周囲には、東金御殿跡の東金高等学校や北原白秋などの文人が訪れた「八鶴館」や、最福寺、本漸寺もあり、文化の中心地であったことが伺える場所です。
学生は各所を紹介しながら回り、住民へのインタビューなどを撮影、編集し、10分ほどのテレビ番組のスタジオ収録を行います。学生がレンズを通して地域を見た経験は、地域愛や学校愛に通じるとともに今後の制作者としての人生においても非常に重要ではないかと考えています。

▲学生による動画撮影の様子
<専門分野・研究テーマ>
ビデオアート、記録映画、映像表現
<キーワード>
ロケ番組、スタジオ撮影、アート、テレビ
福祉とジェンダー平等を考えるきっかけとなったのは、城西国際大学での「女性学」との出会いです。長崎での被爆体験を綴った小説『祭りの場』(1975年)をはじめ、生涯にわたり書き続けた作家・林京子氏(1930~2017)へのインタビューを通じた研究は、現在も受け継がれています。
また、10年ほど前から水田三喜男先生のふるさと・鴨川市の川代地区で棚田の保存活動に学生とともに参加しています。現在では域学共創プロジェクト「川代棚田共育プロジェクト」として交流が続いています。中山間地域の川代地区は60世帯・約200人ほどの集落で、高齢化や人口減少が進む中、棚田の次世代への継承が大きな課題です。日本の原風景ともいえる棚田をつなぎ、都市住民が直接耕作に関われる「オーナー制度」を導入しました。中山間地域の課題解決に向けて、日本人学生と留学生が共に学びながら地域の現状を直視するという一歩を踏み出すことで、関係人口や交流人口、さらには定住人口の増加につながればと願っています。

▲鴨川市の川代地区での稲刈り体験

<専門分野・研究テーマ>
比較文学、女性学
<キーワード>
女性表現、地域福祉
バイオメカニクス(生体力学)が専門で、高齢者の生活に大きく影響する転倒回避動作「ステッピング反応」の際の筋肉などの動きを明らかにしようと取り組んでいます。この研究の一環で、これまで千葉市美浜区のUR団地で転倒予防教室を行ったほか、東金市などと協働で、高齢者のアンケートや身体機能検査などを行いました。
これらの経験から、高齢者の健康づくりには地域における「互助」と、その中核人材の育成が重要だと考え、2023年度 から本学市民未来大学で「ヘルスプランナーコース」を設けました。理学療法、看護、薬学、福祉、経営などの教員が登壇し、高齢者の健康づくりや体力維持を担う「通いの場」のリーダー育成を行っています。2025年3月に1期生が誕生し、地域で認知症カフェを開いた卒業生もいます。今後も地域における健康づくりの中核人材の育成に取り組み、千葉県全体の健康寿命延伸につながればうれしいです。

▲ヘルスプランナーコースの授業の様子
<専門分野・研究テーマ>
バイオメカニクス、人間医工学、地域理学療法学
<キーワード>
転倒回避動作のバイオメカニクス、高齢者の立位姿勢調節機構、住民 主体による介護予防の支援方策
主な研究テーマは、子どもたちを取り巻く性教育の環境づくりです。これまで小・中・高校において児童生徒を対象とした性教育講演や子育てふれあい体験会を実施し、地域との協働を重ねてきました。本年度は、保健所主催の情報交換会に参加し、地域の養護教諭の先生方とともに、これからの性教育の在り方 について意見交換を行いました。
長年関わっている山武保健所管内では、先駆的に性教育に取り組んでおり、地域・学校・行政が連携し、時代や社会の変化に応じた教育内容の検討を進めています。生徒・保護者・教職員を対象としたアンケート調査などを通して、授業での効果的な伝え方を探究しています。授業では、プレコンセプションの視点から自他を尊重するライフデザインを考えることを重視しています。今後も、現場と研究を往還しながら、地域とともに「命を守る性教育」の実践と研究を発展させていきたいと考えています。

▲高校の養護教論、保健所との情報交換会の様子
<専門分野・研究テーマ>
母性・助産
<キーワード>
思春期保健、地域母子保健、世代間交流、メンタルヘルスケア