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官学民連携「子どもとことばをつなぐプロジェクト」~日韓協働ゼミの5年にわたる実践~

トピック

2026.01.30

城西国際大学日韓協働ゼミ (担当教員: 中川正臣/以下、ゼミ) では、この5年間、子どものことばの活動支援に取り組んできました。

2021年は日中韓の5大学と連携した「絵本読み聞かせプロジェクト」、2022年は宮城学院女子大学日本語教育ゼミと神田外語大学中日翻訳ゼミと連携した「防災紙芝居多言語化プロジェクト」に取り組んできました。

この実践をもとにゼミでは2023年から「子どもとことばをつなぐプロジェクト」に取り組んでいます。このプロジェクトでは、子どもとことばをつなぐためにゼミ生が問いを立て、教室外の人々とつながりながらその問いの答えを見つけていきます。ここでは「子どもとことばをつなぐプロジェクト」の柱となる2つの実践を紹介します。

1. ゼミ×きりんの会×韓国文化院

この実践は、ゼミと日韓親子サークル「きりんの会」(以下、きりんの会)、そして駐日韓国大使館韓国文化院 (以下、文化院) が連携する形で行われています。実践の特徴は3つあります。

1つ目はゼミ生が、日韓にルーツを持つ子どもたちに対し、継承語である韓国語や日本語に楽しく触れる機会を提供することです。2つ目はゼミ生が韓国語教育の現場に参加し、外国につながる子どもたちを含む現状や課題を学びながら、言語教育の実践者としてのアイデンティティを形成していくことです。3つ目は、官 (文化院)、学 (中川ゼミ)、民 (きりんの会) が連携することで、持続可能で開かれた言語学習の場を創出することです。

ゼミは、3か月に1回程度、日韓にルーツを持つ親子が集まるきりんの会の活動に参画したり、独自イベントを開きながら、企画や運営を担っていきます。例えば、韓国語のダンスやゲームでことばを学ぶ活動や、ハングルで七夕の短冊をつくる活動、韓国語で創造性を育む活動などを通じて、ゼミ生が子どもたちの韓国語学習に携わっています。また、ゼミ生はこうした企画運営の中で、多言語多文化主義や複言語複文化主義、ステレオタイプ、外国につながる子どもたちに関連する概念を学んでいきます。時には、継承韓国語コミュニティの代表者を招聘し、コミュニティの現状や課題について考える場も設けました。

さらに、2023年と2024年はゼミときりんの会、文化院の共催による「韓国絵本読み聞かせ会」を開催しました。この読み聞かせ会は、文化院や韓国絵本作家の山際尊子氏、絵本セラピストのキム・ボナ氏の協力を得て、誰でも参加でき、ことばの大切さやおもしろさを楽しみながら学ぶことを目的に開催しました。このように、当初は「学」と「民」の連携であった実践が徐々に拡張し、官を含む「官」「学」「民」の連携へと展開され、より開かれた実践へと変化していきました。

この日韓につながる子どもたちを対象にした韓国語学習の場は、日本に移住して間もない子どもの日本語学習支援や、ルーツを問わず韓国語に興味を持つ子どものための学習の場としても機能し始め、新たな役割を見出しています。

サンタさんに韓国語で願いごとを書く活動

韓国語を学ぶゲームの活動

2. ゼミ×福島県川内村立小中学園

上記の実践を進める過程で、ゼミ生たちから「子どもとことばをつなぐ活動が、首都圏や都市部に集中しているのではないか」という問題提起がなされました。確かに未就学児や小学生を対象にした韓国語学習支援は全国的にも都市部が中心であり、きりんの会や文化院も東京を拠点として活動しています。また、当初、プロジェクトでは日韓にルーツを持つ子どもを対象としていましたが、実際にはルーツに関わらず韓国語や文化を学びたいという子どもが私たちのイベントに参加していることに気づきました。こうした経験から、ゼミではより開かれた場を創り出すべきだと考えるようになりました。

地方におけるイベント開催を検討する中で、あるゼミ生の故郷である福島県双葉郡川内村との縁が生まれました。川内村は、2011年3月11日に起きた東日本大震災の際、福島第一原発事故の影響で、隣の富岡町からの約8000人の避難を受け入れました。当時、3028人が住む川内村で多くの避難住民を受け入れることだけでも物理的にかなり無理があったようです。そして放射性物質の汚染は福島第一原発から20キロ圏内が含まれる川内村も例外ではなく、3月15日には村独自の判断により全村避難しました。

現在は多くの住民が帰村したものの、子育て世代の帰村が進まず過疎化・高齢化が進み、2025年12月現在、川内村立小中学園の小学生の在籍者数は49名 (2025年度) です。川内村に高校や大学がないため中学を卒業すると多くの子どもたちは郡山市やいわき市などへ進学していく地域の特性もあります。子どもたちにとっては、普段接することが少ない大学生との交流が異文化体験そのものにもなります。

ゼミでは2025年3月と2026年1月に、川内村立小中学園の小学生が韓国語を学ぶイベントを開催しました。川内村の副村長さんや「コミュニティハウス にじいろ」のコーディネーター谷さんとの協議を重ね、自作のデジタル紙芝居を制作し、読み聞かせなどを通じて韓国語を学ぶ活動を行いました。

このイベントにはもう一つの狙いがありました。それは、ゼミ生が村の人と交流したり、フィールドワークなどを通じて震災の教訓を忘れないことと川内村の過去と現在を学び、「高校生と大学生がいない村」において自分たちは何を実践できるか考えることです。また、川内村村立小中学園の子どもたちの興味や関心、学習環境、さらには子どもたちを取り巻く社会について学び、自身の社会的役割を再認識することでもあります。今後もゼミが川内村にどのような貢献ができるのか、またそれはゼミにどのような学びを与えるのかについて、追い求めていきたいです。

自作のデジタル紙芝居読み聞かせ

紙芝居の次のストーリーを考える活動

学びとこれからの実践

「子どもとことばをつなぐプロジェクト」では、子どもとゼミ生、そして教員である私 (中川正臣) に学びが起きます。子どもたちは、日本語と韓国語という言語文化に接することで、普段使用している母語ともう一つの言語に向き合い、ことばを通じた創造や異なりに対する寛容さを学ぶ機会となります。また、子どもたちが留学生を含む大学生と交流することは、今後のキャリア形成にもつながります。

一方、ゼミ生とっては、言語教育の場をキャンパス内からキャンパス外へと拡張させていく営みにかかわることになります。ゼミ生は自分が学んだ言語や文化の知識を自分の中に留めておくのではなく、社会的行為者として次世代の学びを創り出す担い手となります。また、多様な背景を持つ子どもたちと接することは、社会、文化、歴史といった広い視点に立った当事者性を持つきっかけとなります。

さらに、教員である私自身 (中川正臣) の教育観にも大きな変化をもたらしました。コミュニティ運営者との対話を通じて、コミュニティ運営の背景や持続の難しさを知り、大学教員として何ができるかを常に問い直しています。年齢や言語能力、ニーズの異なる子どもたち全員が楽しめる活動を模索する中で、参加したくても参加できない、あるいは参加しづらさを抱える子どもの存在にも気づきました。その子どもに変化を求めるのではなく、子どもを取り巻く環境をどのように変化させていくか、これはことばの活動の公共性と共に、私自身がこの10年をかけて取り組んできた言語教育におけるインクルージョンに関する研究とも深くかかわる課題です。

今後も人と人、実践と実践、研究と研究を結びながら、子どもとゼミ生とそして私自身が成長する教育実践に取り組んでいきたいです。

2025年度川内村合宿参加ゼミ生と川内村「コミュニティハウス にじいろ」のコーディネーター谷さん (2列目左から2番目)