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ハンガリー研修 18日目②

ハンガリー研修

2025.09.05

9月3日(18日目)②:疼痛管理と代謝異常

 この研修の最初に、医療には文化や社会が深く関わっていると学びました。ハンガリーでは「痛みを我慢しない」国民性のようで、そのため急性の痛みを訴えて受診する患者が多いそうです。実際、病院全体では約70%、救急外来では80~90%にのぼるとのことでした。医療者は薬だけに頼らず、心理的ケアや痛みのスケール(患者がどのくらい痛いかを申告する物差しのようなもの)を使って患者と対話することが大切だと学びました。

 痛み止めの薬には、WHO(World Health Organization, 世界保健機構)が提唱した「3段階除痛ラダー」があります。弱い薬から始め、必要に応じて強い薬に移行し、最終段階では麻薬性鎮痛薬(オピオイド, opioids)を使います。オピオイドは効果が強い反面、副作用や依存のリスクがあるため慎重な使用が必要です。さらに妊婦では薬の選択が難しく、NSAIDs(non-steroidal anti-inflammatory drugs, 非ステロイド性抗炎症薬)は妊娠後期には使えません。オピオイドも母体や胎児への影響を考慮して判断されます。

 次に代謝異常について学びました。救急ではまずABCDE(Airway, Breathing, Circulation, Disability, Exposure)の順に全身を評価します。その後、臓器ごとに詳しく診察します。
また、動脈血ガス分析(ABG: Arterial Blood Gas analysis)で酸塩基平衡を確認することが重要です。正常pHは7.35~7.45で、逸脱すると呼吸や腎臓が代償します。呼吸がうまくできず二酸化炭素が体にたまると、体が酸性に傾きます。これを 呼吸性アシドーシス(respiratory acidosis) といいます。一方で、嘔吐が続くと胃酸(酸性の液体)がたくさん体の外に出てしまい、体は逆にアルカリ性に傾きます。これを 代謝性アルカローシス(metabolic alkalosis) といいます。

 糖尿病に関連する救急疾患も学びました。

・糖尿病性ケトアシドーシス(DKA: Diabetic Ketoacidosis):インスリン不足で高血糖とケトン体増加により体が酸性化。症状は口渇・多尿・倦怠感、重症では「クスマウル呼吸(Kussmaul respiration)」。治療はインスリン投与、水分・電解質補正。

・高浸透圧性高血糖症候群(HHS: Hyperosmolar Hyperglycemic State):高齢2型糖尿病患者に多く、ケトン体は増えず脱水が主な問題。治療は水分補給が中心。

・低血糖(hypoglycemia):インスリン過量や食事不足で発症。発汗・震え・混乱・けいれん、重症では意識消失。治療はブドウ糖摂取や点滴。

今回の学びを通して、酸塩基平衡の理解が救急医療の基本であること、また糖尿病関連の救急疾患では迅速かつ的確な対応が不可欠であることを実感しました。

A.I