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59歳で大学院に リカレント教育の成果を子育て支援の現場に 卒業生インタビュー

 

 

NPO法人「子どもの夢と思い出作り舎」理事長 山本忠篤さん(大学院福祉総合学研究科福祉社会専攻修士課程修了)

NPO法人「子どもの夢と思い出作り舎」の理事長として子どもの成長と親の子育てを支援するとともに、複数の専門学校で非常勤講師も務める山本忠篤さん。仕事に追われる日々を送るなか、一念発起し、59歳で本学大学院福祉総合学研究科福祉社会専攻修士課程に入学されました。社会人学生として学び直したからこそ得られた成果を、日々現場で生かしています。

子どものサポートに長年携わっている山本さんは、そのキャリアを東京都練馬区の福祉・児童指導職からスタートさせました。本学の姉妹校・城西大学の経済学部を1980年に卒業してすぐのことです。「高校を出ていったん就職したのですが、教育や福祉の仕事に就きたいという思いが募り、教員免許取得を目指し大学進学を決意しました」。その背景には、不登校だった中学時代の辛い記憶があると、山本さんは話します。「学校生活が楽しくなくなってしまい、足を運ぶことができなくなりました。同じような状況にある子どもが今もたくさんいるに違いない。社会人として何かできないかと、考えるようになったのです」

念願の専門職に就いた山本さんは、学童クラブや放課後児童クラブ、児童館などで指導・支援にあたるだけでなく、福祉園で知的障がい者の生活支援にも携わりました。日々多くの児童に接するうちに、「子どもたちの遊ぶ時間が減り、それに比例してストレスが高まっているのを実感させられました」と振り返ります。「私たち昭和の子どもは、仲間同士でいろいろな遊びを考えては、思い切り楽しんでいました。雑木林に基地を作ったり、空き地に転がっている土管を隠れ家にしたり。その過程でたくさんけんかもし、手加減や仲直りのスキルを自然と身につけることができました」。

今の子どもたちにも遊びの楽しさ、遊びからの学びを経験してほしい──。山本さんは29年間勤めた区役所を退職し、貴重な子ども時代を子どもらしく過ごすためのNPO法人「子どもの夢と思い出作り舎」を2009年に設立しました。

自らの理想とする活動を展開できる環境を整えたところで、「改めて自分の知識不足を痛感し、限界を感じた」と、山本さんの向上心はさらに膨らみます。NPOを立ち上げた同年4月に、日本大学大学院総合情報社会研究科人間科学専攻心理学分野行動分析学博士前期課程に入学。通信教育で行動分析を勉強し始めましたが、両立には大きな壁が立ちはだかりました。「専門学校で非常勤講師も務めながら何とか頑張ったのですが、義理の父の介護もそこに重なり、遂に勉学を断念せざるを得なくなりました」。1年で退学し、職務と介護に専念したのち、いよいよ2016年9月、山本さんは本学の門をくぐることになります。

「福祉社会学をきちんと学びたい」と、今度は通学を前提に大学院を探しました。条件は昼夜いずれも通学可能なこと。「3校が候補に残りましたが、城西大学出身という親近感もあり、城西国際大学に決めました」。入学してみると、ともに学ぶ仲間の大半は留学生。予想外のことに戸惑ったものの「皆さん勉学に熱心で刺激を受けましたし、海外にも目が向くようになりました」と話します。東京紀尾井町キャンパスだけでなく千葉東金キャンパスでの授業もあり、働きながらの往復は決して楽ではありませんでしたが、「テレビの教育番組などでも活躍していた羽崎泰男先生をはじめ、優れた指導者がそろっていて、発達障害の子供への対応やファミリーソーシャルワークに関する学びが、すぐに現場で役に立ちました」と充実した日々を送りました。

激務の中、自らのフィールドである学童保育の形態比較を修士論文にまとめ上げ、2年半かけて無事に修士号取得を果たしました。「実は、最も近くで応援してくれた妻も私に感化されて、半年遅れで別の大学院に入学したんです。同じ年に修了し、互いの学位授与式に出席しました」と笑顔に。夫婦で社会人入学を経験し、リカレント教育がいかに人生を豊かにするか、身をもって痛感したと言います。「既に次の研究テーマも見つかっていて、福祉や教育に対するクレームの分析に取り組みたいと思っています。『こんなことを研究したい』という思いが次々に沸いてきているので、これからもまだまだ学び続けます。勉強したことは必ず、次につながります」

現在は東京都豊島区、練馬区を基盤にNPO活動を展開し、子どもたちにさまざまな遊びや学び、体験の場と機会を提供しつつ、多くの大学や専門学校で教育や福祉について教えている山本さん。長期にわたるコロナ禍を経て、引きこもりの子どもや若者が増えるのではと、注意深く見守っています。「子育て関連の団体や小学校などからの協力依頼が増えており、自分たちの役割がますます重要になってきていると感じています。責任は重いですが、関わった子どもたちが成長し、活躍する姿を見る楽しみがあるので、ストレスはたまりません」

子どもに関わる仕事を志す学生に、「子どもを取り巻く環境は、時代時代で大きく変化します。いまの子どもにとって何が幸せなのかを考えながら、仕事に取り組める人材になってほしい」とアドバイスをいただきました。また本学に対しても、「社会人向けに1年間で修了できるコースだけでなく、3、4年かけて修士号を取得するような制度もぜひ設けてほしいですね。仕事と並行し、無理のないペースで履修・研究できれば、大学で学び直す社会人がもっと増えると思います」と、後輩のための提案をしてくださいました。

子どもたちに自然の中での遊びを教える山本さん(左奥)

JIUでの思い出の一枚

修士の学位記を授与される山本さん(左から2人目)=いずれも山本さん提供