看護学部 神明 朱美
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行と共に、消毒に使用するエタノールが店舗から消え、飲用のアルコールまでも手指衛生に代用1されています。また、医療機関へのエタノール消毒液の優先供給に、50%台の製品が納入されたケースもあった2と報道されていました。このような状況のため、エタノール至適濃度による抗ウイルス効果、さらに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対してエタノールの至適濃度範囲はどうなのか考えてみましょう。
エタノール製剤は、エタノールを主成分とする消毒薬であり、細菌芽胞を除く広範囲の微生物に対して迅速な殺菌作用を示し、速乾性があることから、水道の無い場所での手指衛生に適しているといわれています3。消毒に使用するエタノールの至適濃度範囲は、日本薬局方(局方)では15℃で76.9~81.4 v/v%4、米国薬局方であるUSP-NF(the United States Pharmacopeia National Formulary)のRubbing Alcoholでは68.5~71.5 v/v%5、ご存じのWorld Health Organization(WHO)ガイドラインでは60~80v/v%6と定められています。これらの至適濃度を支持する報告は2000年以前のものが多く、実験方法や供試微生物、エタノールと菌種との混合比率や作用時間等の実験条件が異なるため、再検証しようと研究を行いました。
また、新型コロナウイルスの感染者が増加している状況に鑑みた臨時的・特例的な対応でありますが、4月1日に厚生労働省より、エタノール濃度が原則70~83 v/v%の範囲内で使用して良い1と事務連絡文章が出され、手指消毒のエタノールの最少有効濃度が低くなりました。そこで、エタノールの最少有効濃度について考えてみましょう。
エタノール濃度は0~90 v/v%(25℃) の10%刻みとし、菌液の添加により供試エタノール濃度が90%に低下するため作用時の最終濃度で記載しました。抗ウイルス効果試験は、保存ウイルス液を使用し、供試エタノール900μLにウイルス液100 μLを混和10秒後に感作し、細胞変性効果を観察することで、ウイルス量を測定しました。また、ウイルス不活化効果の評価は、ウイルス感染価より指数減少値を算出し、LR≧3を満たすことで評価しました。
図1に示すように、エンベロープウイルス(2種7株)は、ウイルス株により36 v/v% または45 v/v%以上の濃度で判定基準値以下となります。また、Kratzelらは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)について、30秒以上でエタノール濃度30 v/v%以上で抗ウイルス効果があると報告しました7。
以上のことから、局方、UDP-NF、WHOのガイドラインで規定されるエタノール濃度範囲は、エンベロープウイルスである新型コロナウイルスに対しても有効であることが示唆されます。一方、エンベロープのないウイルスに対してのエタノールの抗ウイルス効果は、乾燥血清フィルム中のAdenovirus 3型に対して50 v/v%で15分間作用することで抗ウイルス効果が認められたとの報告8やAdenovirus 3型、4型、8型、19型、37型を用いて80 v/v% で10分間作用することで抗ウイルス効果が認められたとの報告9があり、有効ではあるとは言えません。
担当科目:
感染看護、慢性期クリニカルケア方法論演習